:ニトラム/NITRAMニトラム  © 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

:ニトラム/NITRAMニトラム © 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

2022.3.24

ニトラム/NITRAM

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

主人公は子供の頃のように花火で遊ぶことをやめられず、近所から厄介者扱いされる青年。本名を逆から読んだ蔑称、NITRAM=ニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と呼ばれる彼は精神面で問題を抱え、母(ジュディ・デイビス)は厳しくしつけようとする。ある日彼は、引きこもりの相続人ヘレン(エッシー・デイビス)と出会い、新しい暮らしを始める。

1996年、オーストラリアのタスマニア島で起きた無差別銃乱射事件をもとにした作品。コロンバイン高校銃乱射事件を題材にした「エレファント」との大きな違いは、事件の場面を描いていないことだろう。カメラは〝うすのろ〟である自分を変えたくても変えられない青年の不安定さに寄り添い、心と体を持て余すニトラムを演じたジョーンズのたたずまいは悲しみさえ誘う。しかし銃を購入する場面のはっきりとした恐ろしさは、この作品が銃規制を訴える映画であることを伝えている。ジャスティン・カーゼル監督。1時間52分。東京・新宿シネマカリテ、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)

ここに注目

「エレファント」などとは異質の、もっと粘着質の恐ろしさがじわじわと。父親も母親も、ヘレンも、そして、孤独や劣等感、どうしようもなさに追い込まれたニトラムも、どこにでもいそうだからだろう。暴力を手にしたらと、国内で起きている事件も想起されてしまうからだ。(鈴)