「みんなのヴァカンス」のギヨーム・ブラック監督

「みんなのヴァカンス」のギヨーム・ブラック監督

2022.8.17

インタビュー:風景と偶然取り入れ 避暑地の青春生き生きと ギヨーム・ブラック監督「みんなのヴァカンス」

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

鈴木隆

鈴木隆

「みんなのヴァカンス」は、フランスの避暑地を舞台に夏を満喫しようとする若者たちの姿を優しいまなざしで見つめ、コミカルに描いた青春映画だ。テレビ放送用に企画されたが、高いクオリティーが評価され、ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で国際映画批評家連盟賞特別賞を受賞した。「女っ気なし」「やさしい人」などのギヨーム・ブラック監督に、撮影地や作品がもたらす幸福感などをオンラインで聞いた。
 


 

演劇学校の学生の自然なセリフ

フェリックス(エリック・ナンチュアング)は、セーヌ川のほとりでアルマ(アスマ・メサウデンヌ)に恋をするが、翌朝、アルマは家族とバカンスに出かけてしまう。フェリックスは親友のシェリフ(サリフ・シセ)とともに、相乗りアプリで知り合ったエドゥアール(エドゥアール・シュルピス)の車で、アルマを追って陽光まぶしいフランス南東部の避暑地ディーに行く。サイクリングに川遊びにとバカンスを過ごし、時にすれ違う男女の友情と恋愛に、社会背景が緩やかに交差する。
 
ブラック監督がフランス国立高等演劇学校の学生らと製作した作品だ。主要な登場人物の会話がリアルで自然、その場に居合わせたような感覚だ。
 
「俳優たちにシーン集(ステップアウトライン)を渡した。セリフは大半が間接話法で書かれている。多くは撮影に入る前、俳優たちの即興の会話を、私が録音してセリフをシーン集の中に書き加えた。だから、実際に撮っている時に即興はほとんどなくて、あらかじめ決めた上で撮影に入っている」。即興が得意な俳優もいれば、きちんと書かれたセリフで臨んだ俳優もいたようだ。
 
この手法をとった理由はどこにあり、どんな期待をしたのか。「実際のセリフが彼らの言葉だから、撮影中も自由に演じることができたと思う。彼らの言葉をそのまま使うことによって、私と共同脚本家の想像だけのものではなくなった」と説明する。
 
「彼らからの言葉も得たことで、シチュエーションの中で、俳優と俳優との間でリアクションをとりながら演じていくようなところもあった。作品が生き生きとして、その役を具体的に体現するようになったと確信している」


 

人と場所 同じぐらい大切だ

観客との距離の近さを感じるのはセリフだけではない。川や木々、遠くの山など避暑地となった場所へのアプローチにも感じられる。
 
「私にとって映画を撮る場所は、登場人物と同じくらい大切だ。1本目からやっているが、映画を撮るときはまずその場所を描く。そして、そこにいる人、俳優でも素人でも、を描くこと。場所も同じように撮っている。私や撮影監督が考えるのは、カットはその物語を描くだけではなく、そこにいる人、人物の環境を映し出すのが大切ということだ」
 
本作でもその考え方は鮮明に表れている。「広々とした場所をかなり長回しで撮っていて、場所を見せることで観客も自由になると思う。観客は登場人物と同じようにその空間を生きることができる」
 
具体的に言うならば「人物と物語だけではなく、木々のこずえの揺れ、後方の山、キャンプ場に来ている人たち、遊んでいる子どもたち、こうした全てを見ることができる。前景で描かれているものと、後景で描かれているものとの間で順番は全くない」


 

撮影は驚きと奇跡の連続

登場人物はみな、不器用だが根っからの悪人はおらず憎めない若者たち。恋にも友情にも一生懸命になるほどユーモアがあふれ、物語が進むにつれてある種の幸福感に包まれていく。ブラック監督は観客とどう向き合おうとしているのか。
 
「私は観客のために映画を撮っている。もちろん、撮影中はとても不安で大変だが、それに耐えられるように、シーンやシチュエーションを見ながら楽しむようにしている。例えば、長回しで撮っている時やトラブル、自然の光が変わってしまった時に幸福感を感じる。書かれたままに撮影していくのではなく、やはり驚きが必要で、おそらく完成した映画を見る観客も、それによって幸せになるのだと思う」。さらに続ける。「撮影中1日何もなかったとか、予定通り進んだことはほとんどない。驚きや奇跡が必要なのだ」
 
本作でも、ブラック監督の心をつかんだ驚きはたくさんあるという。例えば、フェリックスとシェリフがエドゥアールの車に相乗りするシーンは「嵐のように雨が降っていて、予定が全く変わってしまったが、最終的にはとてもいいシーンになった」
 
川のほとりでフェリックスがアルマに電話するシーンは「彼女と楽しそうに話していた時は日の光が明るく輝いていたが、フェリックスの気持ちが徐々に暗くなってくると、周囲もブルーがかって暗くなってきた。あれは奇跡。幸せな偶然だった」とほほえんだ。「映画の撮影は驚きの連続で、だから楽しい」
 
黒人2人の主人公 ステレオタイプからの脱却
ユーモアと多幸感が前面に出ている作品だが、老人介護、治安、経済格差、出産による休学などフランス社会の現実も背景に息づいている。避暑地を舞台にしたフランス映画は数多くあるが、黒人2人が主人公というのも、珍しい。
 
「前もって考えていたことではなく、演劇学校の若い俳優たちのうち、フェリックス役のエリック・ナンチュアングとシェリフ役のサリフ・シセがすばらしく、主人公にしようと考えた。結果的に彼らは黒人だったが、ある種の責任を感じ、裏切ってはいけないと思った」
 
ブラック監督も気遣った。「彼らが望まない役を与えるわけにはいかないし、彼ら自身もそれを一番心配していた」。黒人の若者は、決まったイメージで語られがちだからだ。「そういうものを乗り越えなければならない。しかし、人種や社会階層の問題が映画の前景、一番のテーマになってはいけない。あくまでも、ひそかに地下にあるような形で描かれなければならない」
 
エリックもサリフも、決まった役しか来ないと苦しんでもいたという。「彼らの存在によってメッセージを伝えるとか、機能的な役割を求められるとか。だから今回は、ほかの俳優と同じように、感情を持ち感動させる役を、彼らと同じ年ごろの人物像を描いた」

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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