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2023.1.22
フランソワ・オゾン監督作「8人の女たち」をリメークしたイタリア映画「7人の女たち」:オンラインの森
Netflixで2022年12月28日に配信がスタートしたイタリアのミステリーコメディー。84分というタイトな尺で密室殺人事件を描く本作は、02年に公開されたフランソワ・オゾン監督の「8人の女たち」のリメークで、原題の〝7 donne e un mistero〟は、〝7人の女たちと一つの謎〟を意味する。
オゾン版には2人のメイドが登場したが、本作ではベテランのメイドが窓拭き中に落下して退職した代わりに、3カ月前に新メイドを採用したという設定で、登場人物が1人減っている。
クリスマスイブに起きた事件。登場人物全員が容疑者
舞台は1950年代のイタリア北部。雪が降りしきるクリスマスイブの朝、森の中の豪邸で、家長・マルチェッロの死体が発見された。背中からナイフで一突き、血まみれで自室のベッドの上にうつぶせに倒れている。雪に閉ざされた密室状態の屋敷にいるのは以下の6人。全員が容疑者だ。
マルゲリータ(マルゲリータ・ブイ)。マルチェッロと25年連れ添った妻。
ラケーレ(オルネッラ・バノーニ)。マルゲリータの実母。足が悪く車椅子で生活している。酒浸り。どケチ。
アゴスティーナ(サブリナ・インパッチャトーレ)。マルゲリータの妹。文学少女がそのまま大人になった。男性とつきあったことがない。
スザンナ(ディアナ・デル・ブーファロ)。マルチェッロ&マルゲリータの長女。ミラノから、クリスマス休暇のために帰省した。
カテリーナ(ベネデッタ・ポルカローリ)。スザンナの妹。10代。
マリア(ルイーザ・ラニエリ)。3カ月前に雇われたメイド。料理上手。
7人の女たちを彩る衣装やヘアメークで際立つキャラクター性
電話線が何者かによって切断されて警察に通報することができなくなり、車の配線も切断されて身動きが取れなくなる。お互いへの疑心暗鬼が強まっていく中で、紫色のコートをまとったブロンド美女、ベロニカ(ミカエラ・ラマツォッティ)という女性が現れる。
ベロニカはマルチェッロの元恋人で、マルゲリータとも面識あり。オゾン版ではファニー・アルダンが演じたが、イタリア版でも挑発的でただならぬ色気を放つ。演じるミカエラ・ラマツォッティは、22年12月30日に公開されたばかりの「離ればなれになっても」でヒロインを演じているほか、「盗まれたカラヴァッジョ」(20年)や「歓びのトスカーナ」(17年)でもメインキャストを担っている。
7人の役者がそろったところで実感した。このリメークの魅力は7人の女たちのキャラクターにあるのだと。例えば、久々に実家に戻ったスザンナがその美しさを警戒するマリアの、雇い主にへりくだらない堂々とした振る舞い。ショックなことがあるといちいち失神する自称〝繊細な〟アゴスティーナ。すきあらば酒瓶に手を伸ばしているラケーレのマイペースさ。
オゾン版ではリュディビーヌ・サニエの役に当たる、最年少のカテリーナを演じるベネデッタ・ポルカローリ(Netflixシリーズ「Baby/ベイビー」のキアラ役)の大人をいら立たせる自由奔放さ。彼女たちが身にまとう衣装やヘアメークもとにかく華やかだ。
マルゲリータは赤、スザンヌは青、ベロニカは紫と、インパクトのある色味の衣装はキャラクターの識別を助けてくれる上、率直に言って見ていて楽しい。マルチェッロの死はさておいて、マリアが作った豪勢な料理に「おいしい!」とむしゃぶりつくクリスマスランチのシーンは、彼女たちのたくましさがあふれ出ていて痛快だ。
ちりばめられた仕掛けの先にある予想外の真実
「誰がなぜマルチェッロを殺したのか?」という謎がストーリーを進めるエンジンになり、7人とマルチェッロの意外な関係や、おのおのが抱える秘密や悩み、うそが少しずつ明らかになっていく。すり替えられた鍵、消えたアゴスティーナの常備薬やラケーレの債券、ベロニカのバッグから発見された銃など、ミステリーを盛り上げる仕掛けをちりばめていきながら、ラストに予想外の真実が明らかになる。
84分という短尺なので、ぜひおかわり視聴をおすすめしたい。美しくタフな女たちの、上手なうそにうなってしまうはず。
「7人の女たち」はNetflixにて独占配信中