「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

2021.9.16

チャートの裏側:退陣の意味を映画から

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

チャート外ではあるが、菅義偉首相を中心に描く政治ドキュメンタリー「パンケーキを毒見する」が動員数を上げている。7月30日から公開された。伸びたきっかけは、菅首相の退陣表明だ。表明以降の9月4、5日の土日の興行収入が、前週比149%、11、12日が同132%だった。 映画は、首相の政治手法や国会答弁などの一連の政治対応をはじめ、自民党政権の現状などをシニカルにえぐり出す。もともと、出足は健闘していた。今の政治に、さまざまな感慨、意見をもつ人々の関心を呼んだのだろう。そこに不平、不満の増大化も重なるように感じた。

数字の上昇は、電撃退陣の意味、理由を映画から探りたいという思いもあったかもしれない。映画に、その答えがある。首相の説明不足、質問へのはぐらかしなどが描かれる。この対応能力の不備が国民の支持を下げる原因にもなり、自民党内の駆け引きにつながるのである。

ただ、どうだろうか。退陣表明後の今の政局動向は、映画に空洞を作った気もしてくる。政治的な題材は巨視的視点が特に重要で、個人に集約されるものではないからだ。映画は頑張ったと思う半面、自民党総裁選の動きは、首相当人からどんどん離れていっている。政治のメカニズムは複雑怪奇だ。映画から、逆にそのことがよく分かる。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

新着記事