発行:株式会社KADOKAWA  単行本  定価:1,760円(本体1,600円+税)

発行:株式会社KADOKAWA 単行本 定価:1,760円(本体1,600円+税)

2022.2.16

「黒牢城(こくろうじょう)」

出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。

ひとしねま

金子亜規子

この度、映画化推奨おすすめ原作ということで誌面を頂きました。
 
KADOKAWA文芸枠の記念すべき第1回は先日の直木賞受賞作、米澤穂信「黒牢城」。――
 
これはですね、もう、黒澤明にメガホンを取ってもらいたいやつです。のっけから無理を申し上げますが、第1話を読んだとたんにそう思っちゃったんだから仕方ない。
 
合戦中の城内で次々起こる怪事件。解決できなければ自軍の士気にかかわるとあって苦悩する城主。謎を解く探偵は地下牢(ろう)の囚人、その名は――黒田官兵衛。大河ドラマをご覧になっていた方は思い出されるかもしれません。有岡城幽閉時代のお話です。
 
天下統一も間際の織田信長に弓を引いた荒木村重のもとへ、織田方の軍使として降伏を勧告にきた官兵衛はそのままとらわれの身に。殺せ、という願いもむなしく地下牢で過ごすうち、かつて水際立った振る舞いと爽やかな弁舌で人を引き付けた武士は、ぼろをまとい、暗い情念を抱く鬼となってゆきます。
 
常にあざけりとも、入れ知恵ともつかぬ言葉でひとのこころを弄ぶ官兵衛ですが、村重が頼る相手は、この世にただ一人、彼しかいないのです。忠実な子飼いの部下たちは、忠実なだけに自身の頭で考えようとはしない。さらに城内は反・信長の旗印のもとに集まった混成軍がそれぞれの派閥に分かれて手柄を競い、時に反目しあっている。
 
そんな籠城(ろうじょう)戦のすさまじい重圧と城主としての孤独の中で、対話するに足るのは、最も自分を憎んでいる男。一方、官兵衛は――⁉
 
腹に一物も二物もある二人の対峙(たいじ)は、いかなる合戦よりもスリリングで胸躍るシーンです。知性と知性の斬り合いに、見えざる血しぶきが、黒い城をさらなる漆黒の闇に沈めていく。このへんが、実に、めちゃくちゃ黒澤っぽい!(個人の感想です)
 
毎回の鮮やかな解決は、しかし滅亡の時計を決して止めはしません。やがて季節は巡り、落城というゼロアワーが訪れたとき、世界は全く新しい顔を見せるのです。
 
戦争論、宗教、哲学、美学、もちろんミステリー、それらをのみ込んで余りある骨太で魅力的な人間像を描ける現代の黒澤、いや全く新しい才能、お待ち申し上げてます! 
 
「蜘蛛巣城」方向にも「乱」方向にも「羅生門」方向にもはたまた「羊たちの沈黙」方向にも「アマデウス」方向にも「薔薇の名前」方向にも可能性はありますが、<対話劇>ゆえ、究極、登場人物2人でもあり……なので、料理の仕方次第で全然違う映像が実現する楽しみもありますよ!

ライター
ひとしねま

金子亜規子

かねこ・あきこ 1997年KADOKAWAに中途入社。コミック、宣伝を経て文芸編集者に。関わった作品に「夜は短し歩けよ乙女」「Another」「天地明察」「あとは野となれ大和撫子」「うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち」などがある。ろくなことをしない猫2匹と戦いながら在宅勤務中。水餃子と北アルプス黒部源流と忌野清志郎が好き。最近は「鎌倉殿の13人」が熱い。墓碑銘に刻みたい言葉は「ごちそうさま」。