Ⓒ2022「百花」製作委員会

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2022.9.15

インタビュー:「百花」親子、語り尽くせぬものある 原田美枝子さん

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

鈴木隆

鈴木隆

「告白」「悪人」「君の名は。」などの映画プロデューサーで、作家でもある川村元気さんの同名ベストセラー小説を自ら脚本、長編初監督した映画「百花」(毎日新聞社など製作委員会)が多くの人の心を揺さぶり、公開されている。記憶を失っていく認知症の母百合子と息子泉の葛藤を描き、親子の情の深淵(しんえん)に迫る感動作だ。
母親を演じたのは、黒澤明、増村保造、深作欣二、平山秀幸監督ら数々の著名監督の名作、傑作に出演してきた日本を代表する俳優、原田美枝子さん。渾身(こんしん)の力で挑んだ役への取り組み、川村監督の演出術、息子役の若手演技派菅田将暉さんへの思いなどを語ってもらった。

「親子」語り尽くせぬものある 

「半落ち」(2004年)、「折り梅」(02年)などで認知症やアルツハイマー病の本人や家族を演じてきた原田さんにとって、ある意味、“慣れている題材”かと思ったら違っていた。脚本を読んでも「独特の描き方をしていてどんな映画になるか想像がつかなかった」という。その一方で「母親というだけでなく、百合子を一人の人間、女性としての部分を描いていた。私の年齢の女性が映画で描かれることが少ないこともあって、より面白みを感じた」。

原田さんは認知症になった自身の母を描いた短編ドキュメンタリー「女優 原田ヒサ子」(20年、ネットフリックスで配信中)で監督、制作、撮影、編集を手がけ、出演もして母の人生、生きざまを見つめ直した。この作品の制作過程で「それまで私には母としか見えなかった母が、一人の人であり、女性として懸命に駆け抜けた人生を垣間見たときに、客観的に母を見て、感じることができた」と話した。その視点は本作と重なるところがある。川村監督は新型コロナウイルスが広がり始めた20年春、一度延期になった「女優 原田ヒサ子」の初日に足を運んでいた。

川村監督は「百花」で、最初から観客が画面から目を離せないワンシーンワンカットの撮影にこだわった。原田さんはスタイルにこだわりすぎているのでは、と不安に思った。本番のテークが重なり「川村監督が何を撮りたいのか分からず何回もぶつかった」と振り返る。川村監督は何度も粘って何かを探していた。原田さんは撮影の前半からそれに呼応した。「自分が考えているよりもっと先のもの、目に見えないものを写し取ろうとしているのが分かった。信用していいと思った。それが出てくるまで俳優も相当のエネルギーを出さなければならない。それが映画に映った」と語る。

映画終盤の湖のシーンは、原田さんと菅田さん、川村監督の取っ組み合いのような壮絶なシーンだ。夕方から始まった撮影が終わったのは午前2時。テストと本番が繰り返された。「川村監督のOKが出た瞬間、私は泣き出してしまい、止まらなかった。菅田さんの胸にすがって泣いていたらしいんです」と言い、「菅田さんがなだめてくれた」。その瞬間、親子が逆転した。「撮影の2カ月間、映画を通して親子を演じてきたことで初めて成立する瞬間だった」

「理屈じゃないし、セリフだけではない。親子の時間を必死に生きてきたんです。今は菅田さんと『戦友だね』みたいな話をしています」。エンディングに向かうほど、母と息子がともに生きてきた感覚がにじんでくる。「川村監督はそれを写したかったんだと思う。おそらく、そのエッセンスみたいなものが生まれるまで、粘って何度も演じさせたのではないか」

「俳優という仕事は、自分が生きてきたものがスクリーンに出てしまう」。原田さんがよく口にしてきた言葉だ。「親と子には、自分の親のことを思っても、自分の子どものことを思っても、もちろん損得とかを超えた、語り尽くせないものがあるんでしょうね」。本作は、母百合子の人として、女としての生きざまにも焦点をあてながら、「親子とは」と問いかける。

最後に、川村監督の言葉と前置きして「今の映画は配信やパソコン、携帯で何かしながらでも見られる時代。映画館で映画を見ることは、ユーチューブやTikTokなども断ち切って、暗闇の中で集中して体感できるということ。音も映像もそういうふうに作ったので映画館で体感してほしい」と話し、付け加えた。「私もそう思う。じっと見ることで映画にも入れるし、自分の心の中にも行ったり来たりできる。自分のお母さんのことを考えたりもできる。そういう映画体験をこの作品で、ぜひしてほしい」と締めくくった。

サンセバスチャン国際映画祭 コンペティション部門出品

「百花」は16日からスペインで開催される「第70回サンセバスチャン国際映画祭」のコンペティション部門に出品される。スペイン語圏最大規模の映画祭で、カンヌ、ベルリン、ベネチアの3大映画祭に次ぐ権威がある。これまでに、日本からは是枝裕和、河瀬直美監督らが作品を出品、受賞している。
コンペ入りに際し、原田さんは「認知症は世界共通の社会問題。親子の関係もわかりあえるのではないか」と期待を語った。菅田さんは「撮影中から世界中の方に見てもらえたら、と話していた監督の願いがかなってうれしい」、川村監督も「大変光栄。記憶をめぐる親子の小さな物語が、日本の俳優たちのパフォーマンスが、国境を超えてどう受け止められるか楽しみ」と喜びのコメントを寄せた。

百花

レコード会社に勤務する葛西泉(菅田将暉)と、ピアノ教室を営む母・百合子(原田美枝子)。
ふたりは、過去のある「事件」をきっかけに、互いの心の溝を埋められないまま過ごしてきた。
そんな中、突然、百合子が不可解な 言葉を発するようになる。
「半分の花火が見たい・・・」
それは、母が息子を忘れていく日々の始まりだった。
認知症と診断され、次第にピアノも弾けなくなっていく百合子。やがて、泉の妻・香織(長澤まさみ)の名前さえ分からなくなってしまう。皮肉なことに、百合子が記憶を失うたびに、泉は母との思い出を蘇らせていく。そして、母子としての時間を取り戻すかのように、泉は母を支えていこうとする。
だがある日、泉は百合子の部屋で一冊の「日記」を見つけてしまう。
そこに綴られていたのは、泉が知らなかった母の「秘密」。あの「事件」の真相だった。
母の記憶が消えゆくなか、泉は封印された記憶に手を伸ばす。
一方、百合子は「半分の花火が見たい…」と繰り返しつぶやくようになる。
「半分の花火」とはなにか?
ふたりが「半分の花火」を目にして、その「謎」が解けたとき、息子は母の本当の愛を知ることとなる―――

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て90年に毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。現在は毎日映画コンクールに携わる。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
ひとしねま

山田茂雄

毎日新聞東京本社写真部

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