「田舎司祭の日記」

「田舎司祭の日記」© 1950 STUDIOCANAL

2021.5.13

特選掘り出し!:「田舎司祭の日記」 理想と葛藤、緻密で豊かに

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「抵抗」「少女ムシェット」などのフランスの巨匠ロベール・ブレッソン監督作品。1951年に作られた名作がデジタルリマスター版で国内劇場初公開される。

北フランスの寒村に赴任した若き司祭は病に侵されながらも布教と善行に励む。しかし、無理解や誤解に苦しみ、村人たちとの間に生じた溝が広がって孤立してしまう。カトリックの作家ジョルジュ・ベルナノスの同名小説が原作。司祭が日常の出来事や思いを記す日記とモノローグが映画のリズムとなり、理想と葛藤がつぶさに静謐(せいひつ)なタッチで語られていく。禁欲的で潔癖、映像や演技などを極限までそぎ落としたブレッソンの厳格な手法が確立された作品だ。

一見、救いのない重々しい受難の物語に見えて、魂の深淵(しんえん)に迫っていく。登場人物はほとんど表情を変えず、個性を示す要素もなくすことで、感情を鮮明に浮き彫りにし、意思疎通の不可能性をもえぐり出す。豊穣(ほうじょう)かつ緻密な言葉と映像は、信仰の意味を問い詰め、真摯(しんし)な魂の存在をうかがわせる。ラストも完璧である。死ぬ間際の司祭に「それがどうした。すべてが聖寵(せいちょう)だ」と言わしめるのだ。1時間55分。6月4日から東京・新宿シネマカリテ、大阪はシアタス心斎橋で近日公開予定。(鈴)

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