「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

2021.4.08

チャートの裏側:テレビ発、客層の広がりは

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

昨年来、新型コロナウイルス拡大後の映画興行は、邦画アニメーションとテレビ局映画(実写)が支えてきたと言える。アニメはコア層の基盤が大きい。テレビ局映画はドラマ視聴者の多さと宣伝力の強さだ。ともに比較的若い世代が目立ったのが、このコロナ禍の特徴だった。

「劇場版シグナル長期未解決事件捜査班」は、後者の範疇(はんちゅう)に入る。関西テレビが中心になって製作した。フジテレビ系列だが、やはりフジとは作品のテイストが違う。国家権力の中枢が事件の鍵を握る。テレビ朝日の「相棒」のような〝社会性〟もふんだんに盛り込まれる。

だから本作は、観客の年齢層が高い部類に入る。ただ、この客層は今の状況ではヒットに限界がある。加えて、本作はドラマ視聴者から客層が広がっていかない傾向も見えた。面白く見たが、少し無難な作風の気もした。最終の興行収入では10億円が一つの目安となろう。

今年に入ってから、20億円を超えたテレビ局映画は1本もない。大ヒットが続いた昨年とは違う。テレビ局映画にも、いろいろある。毎回、コロナ禍の興行への影響を探りつつ、文章を書いている。その影響はなかなか把握しづらいこともある。一つ言えるのは、テレビ局映画といえども、当然ながら興行は作品主体だということである。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)