© 2008「犬と私の10の約束」フィルムパートナーズ

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2023.2.18

丁寧な暮らしと「犬と私の10の約束」

Y2K=2000年代のファッションやカルチャーが、Z世代の注目を集めています。映画もたくさんありました。懐かしくて新しい、あの時代のあの映画、語ってもらいます。

yukino

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ここ数年、「丁寧な暮らし」という言葉をよく耳にするようになりました。Instagramで「#丁寧な暮らし」と検索してみると、350万件以上ものご自愛生活の様子がヒットします。インターネットで検索欄に「丁寧な暮らし」と打つと、「丁寧な暮らし うざい」と検索候補が出てくるなど、反対派まで出て来るほど流行しているようです。「丁寧な暮らし」というと、植物のある整ったお部屋、肌触りが良くて機能性に優れた過ごしやすい衣類、健康に良い食事、早寝早起き、モーニングルーティンなど、ご自愛生活のイメージがあります。私はそんな生活によく憧れますが、実際はそううまくはいきません。自堕落な生活を送りながら、「その方が私らしい」なんて逆にポジティブに考えている始末です。映画「犬と私の10の約束」は、そんな私にも、生活の節々は丁寧ではなくとも、できるだけ心に余裕を持って、丁寧に生きたいと強く思わせてくれた映画でした。
 

「犬の十戒」

1.私と気長につきあってください。
2.私を信じてください。それだけで私は幸せです。
3.私にも心があることを忘れないでください。
4.言うことを聞かないときは、理由があります。
5.私にたくさん話しかけてください。人の言葉は話せないけど、わかっています。
6.私をたたかないで。本気になったら私のほうが強いことを忘れないでください。
7.私が年を取っても、仲良くしてください。
8.あなたには学校もあるし友達もいます。でも、私にはあなたしかいません。
9.私は10年くらいしか生きられません。だから、できるだけ私と一緒にいてください。
10.私が死ぬとき、お願いです。そばにいてください。そして、どうか覚えていてください。私がずっとあなたを愛していたことを。
(原典:犬の10戒)
 
 
作者不詳の短編詩「犬の十戒」をモチーフとした、14歳の少女「あかり」とペット「ソックス」の12年間の物語です。
 
実家で今年18歳を迎える愛犬を飼っている私は「10の約束」を聞くだけで目の奥が熱くなりました。物語を通して、自分と重なるところがあり、涙なしには見ることができない作品です。
 

飼い犬の「死」や「衰え」を目の当たりにして

犬を飼いたいと切望していたあかりと愛犬のソックスは大の仲良しですが、あかりが成長するにつれ、「10の約束」の存在は薄れていきます。触れ合う時間が少なくなったり、ソックスの気持ちを考えずに行動したり。「ソックスがいると旅行に行けない」なんて発言をしてしまう切ないシーンがあります。客観的にみると「ひどい、かわいそうだ」と思ってしまいそうですが、何年も一緒に過ごすと家族の一員として当たり前の存在になってしまい、永遠にそばにいるつもりになって、時に冷たく当たってしまうというのは、実際によくあることなのではないかと思います。家族の関係性がリアルに描かれているからこそ、「10の約束」が教訓として生きています。しかし、あかりの父親の転勤でソックスを友人に比較的あっさりと預けてしまうシーンなどは、「10の約束」の存在を生かすためとはいえ、個人的にとてもショックでした。
 
私は愛犬と7歳の頃から高校を卒業するまで、ずっと一緒に暮らしてきました。数年前までは、元気に走り回ったり、耳が痛くなるほどにキャンキャンとほえていましたが、今はトボトボと歩き回るのが精一杯で、吠えることはほとんど無くなりました。目もほとんど見えていません。実家を離れて6年がたとうとしていますが、帰省するたびに明らかに弱っていく愛犬を見るたびに、命ははかなくて限りがあるものだと思い知らされました。それに気付いてからは、会える時間を大切にしなかったことはありません。気付く前も、愛情を持って接していましたが、もっと早くから気付いていれば、もっと大切にできたのにと思ってしまうのです。
 
「死」や「衰え」を目の当たりにして、ようやくそれに気付きますが、それでは遅いのではないかと思います。また、たとえそれに気付いたとしても、いつの日にか世の喧騒(けんそう)にもまれて忘れてしまうこともあるのです。
 

丁寧に生きていきたい

映画や小説は、そのような経験がなくても、命ははかなくて有限だということを思い出させてくれます。この映画はまさに、今を大切にしなければならないと教えてくれました。このストレス社会に生きていると、常にそれを念頭に置けるほど心や時間に余裕を持つことはなかなか難しい時もあります。
時には、丁寧な暮らしとはほど遠い自堕落な生活を送ってしまうこともあるでしょう。しかし、目の前のものを大切にできるくらい心には余裕を持って、丁寧に生きていきたいと思いました。

動物を飼っている人はもちろん、飼っていない人にもおすすめしたい映画です。
ご覧になってみてはいかがでしょうか。

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ライター
yukino

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ゆきの 
1998年9月14日生まれ。宮崎県出身。
長崎大学在学中にスカウトされ芸能界に。
その後、アパレルブランドのニューバランス、シャカハイのイメージモデルを経て東京ガス、優里MV「べテルギウス」、Google「GALAXY」などに出演。
現在、ドラマ、映画などで活躍中。