「暴君」より

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2024.9.03

キム・ソンホらキャストは皆はまり役! 韓国ノワールの魅力が詰まった「暴君」

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

梅山富美子

梅山富美子

過激で容赦ないアクションとしびれるようなサスペンス展開でかけ抜ける韓国ドラマ「暴君」が、ディズニープラスで配信されている。人間の能力を著しく強化するウイルス〝暴君プログラム〟をめぐり激しい争いが起こるさまを描く本作は、韓国ノワールの魅力が詰まった作品だ(一部本編の内容に触れています)。
 


アクションとサスペンスの加減が見事

世界の強国に引けを取らないため、極秘プロジェクトとして〝暴君プログラム〟の開発を計画中だった韓国政府の科学者たち。しかし、プロジェクトの存在を知ったアメリカの諜報(ちょうほう)員グループが、サンプルの引き渡しを要求する。研究成果を絶対に他国にわたしたくない科学者チームのチェ局長(キム・ソンホ)は秘密工作部隊を雇うが、配送中にサンプルは消えてしまう。
 
とにかく出てくる登場人物が強者ぞろい。〝暴君プログラム〟のためなら手段を選ばないチェ局長、サンプル死守のため雇われるすご腕の暗殺者ジャギョン(チョ・ユンス)、不気味な元傭兵(ようへい)のイム・サン(チャ・スンウォン)、アメリカの諜報員ポール(キム・ガンウ)が最後のサンプルをめぐって火花を散らし、最後に笑うのは一体誰なのか、結末まで目が離せない展開となる。
 
チェ局長役のキム・ソンホは、演劇界で活躍し、ドラマ「​​100日の郎君様」(2018年)、「スタートアップ:夢の扉」(20年)、「海街チャチャチャ」(21年)などで脚光を浴びてきた。これまでの出演ドラマでは、〝いい人〟役が多かったなか、「暴君」では、どんな相手も巧みに翻弄(ほんろう)する役柄に挑戦。少し相手をさげすんだような笑いは恐ろしくもひき込まれること間違いなしで、ヒールなのに含みのあるミステリアスな役柄がぴったりとハマっていた。
 
また、ジャギョン役のチョ・ユンスは、これまで「女神降臨」(20年)、「未成年裁判」(22年)などのドラマに出演してきたが、ドラマのメインキャストを務めるのは今作が初となる。解離性同一性障害があり、双子の兄の人格が現れる暗殺者という複雑なキャラクターで、堂々たる演技を披露。けだるそうな雰囲気と暗殺者モードでキレキレな動きを見せるギャップが圧巻で、たばこをふかすシーンが最高にかっこよかった。
 
強者たちのなかでもとりわけ強烈なインパクトを与えたのは、チャ・スンウォンふんするイム・サン。二八分けののっぺりとした髪にメガネ姿で淡々と任務をこなす姿は、とても気味が悪かった(褒め言葉としての意味で)。映画「ノーカントリー」(07年)でハビエル・バルデムが演じた殺し屋シガーを彷彿(ほうふつ)とさせるような、日常に突如現れる狂気、えたいの知れない不気味な雰囲気は脳裏に張り付いて離れず、拷問しながら生き生きと好きな列車について語るシーンは狂気そのものだった。
 

「The Witch/魔女」「THE WITCH/魔女 —増殖—」が未見でも楽しめる

本作は、韓国でヒットした映画「The Witch/魔女」(18年)、「THE WITCH/魔女 —増殖—」(22年)のスピンオフに当たる作品だが、両作を未見でも楽しめる内容だった。もしシリーズを見ていたら、考察で盛り上がれるし、もう一度作品を見返したくなる。
 
なお、同シリーズの監督と脚本を手掛けたパク・フンジョンが、同じく監督と脚本を務めた。監督の持ち味である切れ味鋭いアクション描写や手に汗握るサスペンス展開が見事で、ジャギョンやイム・サン、チェ局長のスピンオフが見たくなるほど全ての役が魅力的だ。
 
もともと「暴君」の企画は映画としてスタートしていたといい、全編にわたって漂うダークな雰囲気で、容赦ないアクションは重厚感たっぷり。シーンとシーンの間の暗転、俳優たちの表情や映像だけで語るような場面などは配信ドラマならではで、全4話とは思えないほどの見応えがあった。
 
ちなみに、キム・ソンホの映画初出演にして初主演となった「貴公子」(23年)の監督を担ったのもパク・フンジョン。両作品ともキム・ソンホの俳優としてこれまでにない一面が引き出されており、2人の相性の良さがうかがえる。
 
「暴君」はディズニープラスのスターで全4話独占配信中

ライター
梅山富美子

梅山富美子

うめやま・ふみこ ライター。1992年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映像制作会社(プロダクション・マネージャー)を経験。映画情報サイト「シネマトゥデイ」元編集部。映画、海外ドラマ、洋楽(特に80年代)をこよなく愛し、韓ドラは2020年以降どハマり。

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