「雑魚どもよ、大志を抱け !」©2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

「雑魚どもよ、大志を抱け !」©2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

2023.4.02

不完全なままに生きてゆく「雑魚どもよ、大志を抱け!」: 英月の極楽シネマ

「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。

英月

英月

昭和末期の田舎町に住む7人の小学生が主人公のこの映画は、おさい銭泥棒に万引きなど、令和の今なら「炎上」騒ぎになってもおかしくないような場面がたくさん出てきます。

転校生の小林(坂元愛登)はエアガンを持って登校、カツアゲをするアキラ(蒼井旬)など、登場人物たちからして炎上しそうなメンバー。その他の5人もいろいろと問題を抱えています。豪邸に住む西野(岩田奏)は学校になじめず、ヤンキーの姉を持つ正太郎(松藤史恩)は自宅が彼女たちのたまり場に、トカゲ(白石葵一)の母は怪しげな宗教にのめり込み、隆造(田代輝)の父親はヤクザで前科持ち。その中で唯一「普通」の瞬(池川侑希弥)はある日、仲間がいじめられている現場を目撃しますが、恐怖心から見て見ぬふりをします。

そのことで彼自身が、自分は仲間を裏切った弱虫だとの思いに苦しみます。けれどもそれは、瞬だけのことではありませんでした。隆造が、暴力を振るう父に殺されるかもしれないと恐れていたように、7人すべてにそれぞれの恐怖があり、弱さがあります。

とは言っても、過信しているからか、はたまた気づきたくないからか、自分の弱さは分からないものです。彼らは、恐怖の象徴として登場する「地獄トンネル」と呼ばれる町はずれにある廃線のトンネルと向き合うことで、それぞれの心の弱さとも向き合っていきます。

一度炎上してしまうと人生そのものが抹殺されてしまうような現代において、犯罪を肯定はしませんが、不完全な彼らが不完全なまま存在している姿にちょっとした爽快感を覚えます。それだけでなく、不完全な「雑魚」である私たちが、不完全なままで大丈夫だと知らされた思いがしました。

東京・丸の内TOEI、大阪・梅田ブルク7ほかで公開中。

ライター
英月

英月

えいげつ 1971年、京都市下京区の真宗佛光寺派・大行寺に生まれる。29歳で単身渡米し、ラジオパーソナリティーなどとして活動する一方、僧侶として現地で「写経の会」を開く。寺を継ぐはずだった弟が家出をしたため2010年に帰国、15年に大行寺住職に就任。著書に「二河白道ものがたり いのちに目覚める」ほか。インスタグラムツイッターでも発信中。Radio極楽シネマも、好評配信中。