「逆転のトライアングル」Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

「逆転のトライアングル」Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

2023.2.28

価値観が変わればひっくり返る「逆転のトライアングル」:英月の極楽シネマ

「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。

英月

英月

この映画は三つのパートに分かれ、最初は主要な人物である2人の紹介。ピークを過ぎた男性モデルのカールと、人気女性モデルのヤヤのカップルが登場します。男性モデルの収入は女性モデルの3分の1でありながら、デート代はカールが払うことが当然とされるなど、ジェンダーやルッキズムに焦点が当てられます。

次のパートの舞台は豪華客船。桁違いの金持ちが集まる乗客の中には、インフルエンサーとして招待されたヤヤとカールもいます。高額チップ目当てに、奴隷のようにかしずく乗務員たちは皆、白人です。有色人種の乗務員たちは、清掃員や調理など、乗客から見えないところで働きます。ここでは、階級社会に焦点が当てられます。

最後のパートの舞台は島です。客船が難破し、カールとヤヤを含む数人が島に漂着します。ここで、性別、容姿、人種、社会的地位といった価値観が崩壊します。役に立たないのです。大事なのは、サバイバル力。そこで頭角を現したのが、トイレ清掃のフィリピン人乗務員でした。

支配する者、される者。施す者、施される者。それらを隔てているのは、価値観です。お金であれば、持つ者と持たざる者。サバイバル力であれば、能力があるかないか。価値観が変われば、支配者にも、支配される側にも簡単に変えられていく。そして立場が変われば、傲慢にも卑屈にもなる。その中で、恋愛の対象さえも変えられていく。衝撃でしたが、それが私たちなのかもしれません。自分もその中にいたら、どうなってしまうのか。考えるだけでも、恐ろしい。

東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪TOHOシネマズ梅田ほかで公開中。

ライター
英月

英月

えいげつ 1971年、京都市下京区の真宗佛光寺派・大行寺に生まれる。29歳で単身渡米し、ラジオパーソナリティーなどとして活動する一方、僧侶として現地で「写経の会」を開く。寺を継ぐはずだった弟が家出をしたため2010年に帰国、15年に大行寺住職に就任。著書に「二河白道ものがたり いのちに目覚める」ほか。インスタグラムツイッターでも発信中。Radio極楽シネマも、好評配信中。