©創通・サンライズ

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2024.2.19

「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」散開した僚兵、もしくはまぶたの恋人と再び出会う映画! ガンダムファンは義理堅い

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

ひとしねま

公野勉

初作より、実に約22年の時を経ての新作「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」が公開された。


 

〝 1st.ガンダム〟シンパ

初作放映時、製作現場でいちばん忙しい時代だったこともあり、ほとんどオンエアは見ていなかった。世代の例に漏れず〝 1st.ガンダム〟シンパであり、トミノ作品ではないこともあって、 特に意識するつもりも無かったのだ。ただ、定期購読する業界誌では毎月かなり大きな特集が組まれていて、内容やキャラクターの相関関係、ストーリーの推移はなんとなく頭に入ってきていた。当時、毎年連作されていたガンダムシリーズに低調の兆しが見えていた中、とてつもなく人気が高く、大きく同シリーズを復調させた作品だったと記憶している。それは同時に、同シリーズが旧作にとらわれない、多くの新しいファンたちによって市場が再組成され始めていたことを物語っていた。
 

ボクらは20年以上待った

そんな名作の、待望の新作が22年ぶりにさまざまな困難を乗り越え、劇場へ届けられた。かなり壮大なエピックムービーとなっていて、当作を見たかつてのファンたちが歓喜したのは言うまでもない。さまざまな困難とは――例えば、幾度もの休止や内容の変更がアナウンスされたり、脚本家の急逝があったり――という事らしい。研究室の学生たちが興奮して教えてくれた。「とにかく、ボクらは20年以上待ったんです!」……キミ、最初はいくつの時に見たのよ?と思ったが、さもありなん、彼らは無論、同時視聴世代などではなく、彼らの親こそが当作のネーティブだったのだ。つまり、彼らは〝 SEED世代〟の英才教育により子守歌代わりに当作を見せ続けられて育った、〝 SEED2世〟だったのだ。
 

家族ぐるみの同窓会

内容は〝 同窓会的作品〟という表現が適切だろう。これはキャラクターたちの同窓会という意味だけではなく、多世代化したファンたちも共に参加する、家族ぐるみの同窓会なのだ。公開から18日間で動員163万人、興収26.8億円を記録という数字を見てもこれは明らかだ。当時そのままの市場、そしてプラスアルファが動員力となっている。
 

〝 1st.世代〟が喜ぶギフト

素晴らしいのははるか20年以上前の作品の後継でありながら、ファンの心情をくんでオリジナルボイスの継続を(ほぼ)堅守し、画(え)は当時のタッチをきちんと再現しつつ、さらにそれを進化させている点だ。

 例えばニーショットの人物の描画では手の指までを中割りして作画し、指先までが動く(そしてロングショットになっていく!)。オンエア当時では3DCGのウィークリー制作には限界があり、モビルスーツの作画がCGの制作会社にとって負担とならないよう、スクエアなラインで設定・描画されていたが、今回もその直線的な質感を維持しつつ、現在のCG技術では可能となった美しい曲線のモビルスーツも多数登場する。さらにその3DCGには〝 1st.世代〟が喜ぶギフトもつまっているのだ(お楽しみに)。
 

会えてうれしいんです

先に書いたように研究室にはファンが多く、彼らは「オンエア時には生まれていない」。それがなぜこれほどまでにこの作品を求めるのだろうか。彼らは特典も無いのに幾度となく劇場に通う。

 尋ねてみた。「画は最高にイイ!――けど、なんか感想を説明するのが難しいんですよねえ……そう、入学した高校でムチャクチャ久しぶりに幼稚園の友だちに会った時のように、リアクションに困る感じなんですよ。あるいは、同窓会に行ったら同窓会の出し物の方が派手で気づいたら終わっちゃってて、友だちとあんまり話せてなくて惜しいようなほっとしたような……」「街で昔のままにキレイな初恋の人を見かけるんだけど、なぜか話しかけられずに、ずっと後を追ってしまうような――」と、ロマンチックに語る。「でも――でも先生、会えてうれしいんです。それだけは間違いない。だからまた見に行きたくなる」――ふーん、と続けて尋ねた。

 「それはさ、別に仲が良いワケじゃないけど、同じ軍隊の兵隊同士が戦場で散開して再合流するような――激戦中にばったり僚兵に出会えた時の――ありがたさとかうれしさとか、そんなの?」「先生、戦争行ってないから分かんないです、それ……でもきっとそんな印象なのかな。僕らと同じようにどこかで時間を過ごしてきた、僕とおやじの時代の〝 オレたちのガンダム〟と、この映画で再び巡り会えた、そんなカンジなんですよ」などという。

「……オトナになったんだなあ、キミら……あ、オレも戦争行ってないな」 言い得て妙、妙だが確かに言い得ている。
 

それぞれの時代の〝 オレたちのガンダム〟

「ウルトラマンメビウス」(2006年)において、去って久しい地球にウルトラマン80が帰還した際、成長したかつての教え子たちが80に叫ぶシーンがある(80は人間体時、中学教師をしていた)。「オレたちの――オレたちのウルトラマンだ!」、あれと同じではないか。ガンダムのシリーズは1979年、まだWindowsも携帯電話も無い時代、ポケモンもジョジョもキャラクターシーンにいない時代から始まったのだ。アンパンマンのアニメさえ始まっていなかった。多世代化も進むはずである。それぞれの時代の〝 オレたちのガンダム〟がある。
 

ガンダムファンは義理堅いなあ

〝 1st. 〟の次世代になる父と、その息子の〝 オレたちのガンダムSEED〟が帰って来た――それだけで間違いなくうれしかったはずだ。観客が戸惑いながらモジモジと恥ずかしそうに、期待とは違う内容だったとしても見に行く――そんなまれな作品、それが「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」なのである。

ガンダムファンは義理堅いなあ。〝 オレガンダム〟ではないが、息子と孫の同窓会、もう一度のぞいてみよう。

ライター
ひとしねま

公野勉

山口県出身。1993年日本大大学院法学部研究科修了。円谷プロダクション入社後、東北新社、ギャガを経て日活の製作・配給担当取締役。タカラトミーでコンテンツ・スーパーバイザー、タツノコプロの担当役員を務め、現在は文京学院大学で後進育成を行いつつ、映画監督や舞台コンテンツの製作等を続けている。日本映画監督協会所属。