©️2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会  ©️2013 ⽯塚真⼀/⼩学館

©️2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©️2013 ⽯塚真⼀/⼩学館

2023.5.10

置きに行くな! 映画「BLUE GIANT」から入社20年目のテレビ局員が突き付けられたモノ

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

安部正実

安部正実

2023年2月17日に公開されたアニメーション映画「BLUE GIANT」。公開から2カ月ほどで興行収入10億円を突破し、大ヒット作品となった。「名探偵コナン黒鉄の魚影」、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」等、メガヒットが約束されたような超人気作品が公開される中にあっても根強く動員を獲得しており、その人気は衰えていない。
 

「内臓をひっくり返すくらい自分をさらけ出すのがソロだろ」

劇中、凄(すご)腕ピアニストの沢辺雪祈(サワベユキノリ)が、自分たちの演奏を聞きに来ていた「SO BLUE」の支配人、平(たいら)から言われたセリフだ。「君は臆病か?」、「そもそも君は音楽をバカにしている以前に、人をバカにしているな」と畳みかけられるのだが、このセリフを聞いた時、私は久しぶりに電流が体中に走ったような感覚を覚えた。入社20年目、若いころに死に物狂いで働いていた制作現場を離れ、経営企画部で放送局のこれからを考える毎日を送る自分が、急に新人時代にタイムスリップしたような感覚になったのだ。
 

圧倒的な熱量で観客を魅了する3人の若者たち

映画「BLUE GIANT」は、ジャズに魅了され、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大(ミヤモトダイ)が、卒業を機に上京し、ライブハウスで出会った同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈の演奏に魅了され、グループを組むところから始まる。その後、聴く者を圧倒する熱量を持った大の演奏に感化された高校時代の同級生、玉田俊二(タマダシュンジ)がドラムとしてグループに加わり、ジャズユニット「JASS」を結成するのだが、10代のうちにジャズの名門クラブ「SO BLUE」で演奏することを目標に掲げた3人の熱量、夢に向かって真っすぐに突き進む情熱にとにかく魅了されるのだ。雪が降ろうと、毎晩のように誰もいない河原でサックスの練習を続ける大。雪祈に「200%ドラマーになるのは無理!」と言われながらも必死でくらいついていく玉田。「下手だからってメンバーに入れないからジャズを狭くしてしまう。下手でも感動できれば良い」と玉田を慰める大。自身のソロに自信が持てなくて悩む雪祈と、「それは雪祈の問題、俺にできることは無い」と突っぱねる大。不器用ながらも、自分は成功できると信じてやまない若者たち。その姿に魅了されるのは、「今の自分に彼らのような真っすぐな気持ちはあるのか? 仕事に情熱を持っているか?」と、正面から突き付けられるからなのかもしれない。
 

「これが受けるだろうと置きに行くな」上司の言葉と重なった支配人のセリフ

SO BLUEでの演奏を夢見る雪祈はある日、プロギタリストの川喜田に頼み込んでSO BLUEの支配人・平を紹介してもらい、平を自分たちのライブに誘うことに成功する。ライブは自分たちとしては成功と言えるレベルで、平に気に入ってもらえたと確信した雪祈だったが・・・・・・。ここで出てくるのが冒頭に紹介したセリフである。
「君のピアノはつまらない」、「何故本当のソロをやらない?」、「内臓をひっくり返すくらい自分をさらけ出すのがソロだろ」・・・・・・。SO BLUE出演への道はここで閉ざされてしまい、雪祈は大きく落ち込んでしまうのだった。
 
20年近く前の私。まだ入社して2年目か3年目くらいのころ。志願して、社会問題や頑張っている人にスポットをあてるコーナーのディレクターをやらせてもらったのだが、当時の上司から同じことを言われた経験がある。自分のVTRで視聴率を上げたい、周りに認められたいと思っても、先輩やプロデューサーからするとその企画の何が面白いか全然分からない。自分が面白いと思っているものが本当に面白くないからなのか、自分のプレゼン能力が低いからなのか。信頼されていないからなのか。今思うと、全部当てはまるような気もするが、週に1本、7~8分くらいのVTRを自分1人で作らねばならないという緊張感もあってか、まさに脱出の仕方が分からない沼に入り込んだような気分だった。じゃあ、上司や先輩に「ハマる」ものを作ればいいのか。そう思った私は、先輩ディレクターが取材した話題と似たような企画をやってみたりしたが、上司は全てお見通しだった。ある夜、誘われたバーにて。「お前が本当にやりたいことが見えない」、「器用さに溺れるな。もっと自分をさらけ出してやりたいことでぶつかってこい。置きに行くな」。上司からすると、三振しても良いから、自分のやりたいことをすべてさらけだしてぶつけてこい、と言いたかったのだろう。SO BLUEの支配人・平の言葉と私の上司の言葉。共通するのは、どんな時も、自分がやりたいと思うことに対して、素直に、正直に。自分をさらけ出して、「我ここに在り!」と自信をもって言えるような仕事をすべきだということだ。
 
BLUE GIANTの雪祈は、その後訪れたチャンスをつかみ、平支配人の信頼を獲得してSO BLUEで演奏できることになる。一方、自分は・・・・・・。年を重ねるにつれて経験を積んだ私は、自分の考えた企画で出資者を募って番組を制作したり、海外向けプロモーションを課題とする企業から協賛金を頂いてタイ向けの番組を制作する等、ローカル局の社員がそう簡単には経験できないさまざまな仕事をやらせてもらってきた。しかし、局員としては当然なのだが、ある意味でそれも、出資者や協賛企業の皆さんに満足いただくためのものでもあり、「本当に自分を100%さらけ出したのか」、つまり、「クライアントの皆さんを満足させるために置きに行ってないか」と問われたら、回答に窮して悶絶(もんぜつ)してしまうかもしれない。しかし理想は・・・・・・。もう答えは分かっている。BLUE GIANTを見て、改めて気づかされた大事なこと。かつての上司から言われたとても大事なこと。入社から20年たった今、改めて誓おう。
「内臓をひっくり返すくらい自分をさらけ出す仕事をしよう」
そしてその上で、関わってくださる全ての人に良かったよと言ってもらえた時に、その仕事は初めて100点だと言えるのだ。

ライター
安部正実

安部正実

2003年CBCテレビ入社。報道部の経済記者として、片山右京氏のダカールラリー参戦に密着した他、人にスポットをあてたコーナーのディレクター等を担当し、愛知万博や至学館大学女子レスリング部等の取材を行った。2008年からはコンテンツビジネスや動画配信を担当するセクションに。映画、深夜アニメへの出資ビジネスを担当した他、ドラマと連動したレストランをオープンさせる等、放送を軸としたビジネス展開にも注力した。2022年7月から経営企画部に。新規事業や投資案件等を担当している。