ひとしねま

2022.5.20

チャートの裏側:「シン」が与える高揚感

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「シン・ゴジラ」は、定型化されたゴジラシリーズの物語、描写の枠組み双方で新たな展開を見せ大ヒットした。「シン・ウルトラマン」もまた、同様の試みへの期待感があり、大ヒットのスタートである。最初の3日間の興行収入9億9000万円は、「シン・ゴジラ」を超える。

なぜ人は「シン」というタイトルをもつ邦画大作に魅力を感じるのか。2作とも、根っこに人気の映画やドラマのオリジナルの長い歴史がある。作品の中核に強力なキャラクター、独特の特撮技術がある。その総合力が、多種多様な人たちをとりこにしてきた経緯をもつ。

「シン」への期待感は、作り手たちへの絶大な信頼感が育んだ。単なる「続き」ではないとの認識からだ。それは進化という言葉がふさわしい。「シン」版2作品の進化の形は違うが、多くの人に〝共同幻想〟を植えつけたことで共通している。これが興行の大きな成果を生む。

共同幻想は、一種の夢の希求とも言えよう。ワクワクとドキドキの喚起だ。何が出てくるのか。予測不能の中身と未知なるものへの気持ちの高揚感が交じり合う。「シン・ウルトラマン」の興行は、共同幻想が一つの夢に結実した「シン・ゴジラ」を基盤にした。あとは中身の伝播(でんぱ)力次第だが、この判断が現時点ではなかなかに難しい。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)