「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV ©やなせたかし/アンパンマン製作委員会2024

「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」©やなせたかし/フレーベル館・TMS・NTV ©やなせたかし/アンパンマン製作委員会2024

2024.6.25

ばいきんまんがヒーローに⁉ 親の胸も熱くする〝悪役〟の不屈の闘志 劇場アニメ「アンパンマン」最新作

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

SYO

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日本に知らぬ者はいないといってもいい人気キャラクター、アンパンマンがいま、新たな盛り上がりをみせている。絵本「アンパンマン」の誕生50周年となる2023年10月には、NHK連続テレビ小説の25年度前期として「あんぱん」の制作が発表。これは、「アンパンマン」の原作者やなせたかしと小松暢の夫婦をモデルにした作品だ。また、同時期には1988年10月3日から始まったテレビアニメの35周年を記念して、特別エピソード「ジャムおじさんとアンパンマン」が放送。ジャムおじさんの少年時代を描いたエピソードは大反響となり、Xでは関連ワードがトレンド入りした。


連続テレビ小説、アニメ放送35周年、そしてヒロアカも

これらは公式周りの動きだが、くしくも同タイミングで人気漫画「僕のヒーローアカデミア」でも〝最高のヒーロー〟であるオールマイトが少年期に憧れた存在としてアンパンマンが登場するなど(第403話)、何かと話題に事欠かなかった「アンパンマン」。年明けの24年1月には劇場アニメ第35作「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」の情報が解禁され、またもやバズを呼び起こすこととなる。なんと本作、悪役であるばいきんまんが〝主人公〟として活躍するのだ。

公式サイトのあらすじを一部紹介すると「絶体絶命のピンチの中、ばいきんまんはルルンに『アンパンマンを呼んでこい!』と伝えるのでした――。アンパンマンとばいきんまんが力を合わせて大活躍!」と、ばいきんまんがメインに据えられただけでなく両者が共闘するストーリーが示唆されており、その斬新性が耳目を集めた。


すいとるゾウに立ち向かうものの……

ではここからは、その「それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン」で何が描かれるかをかいつまんで紹介しよう。絵本の中に吸い込まれてしまったばいきんまん。その世界では、愛と勇気の戦士としてばいきんまんがあがめられており、彼は住人のルルンから森で大暴れする〝すいとるゾウ〟の退治を依頼される。迷い込んだ世界にはアンパンマンがいないと知り、すいとるゾウを倒せば世を支配できると考えたばいきんまんは戦いに出向くも、得意のメカは手元になく、生身では惨敗。しかし彼はあきらめず、手近の素材で巨大ロボ「ウッドだだんだん」を自作。再戦に臨むが、すいとるゾウの強さに大苦戦を強いられる。苦渋の決断として、ルルンを介してアンパンマンに助太刀を請うのだった。

前情報の通り、本作はばいきんまんの物語になっており、彼がヒーローとして覚醒していく。本作ならではの展開といえるが、ばいきんまんの元々の設定からズレておらず、整合性がきちんと取れているのがポイントだ。「自分には無理」が口癖の泣き虫なルルンに対して、ばいきんまんはこう言う。「こんなことでメソメソするな。俺様なんて何回も失敗してるんだ」「俺様は何度やられても立ち上がる」「アンパンマンに何度も負けているが、それでも最強は俺様だ」と。「アンパンマン」の劇中、ばいきんまんは何度挑んでもやられる存在として描かれる。にもかかわらずなぜ挑むのか――そこには本人の「不屈の精神」があるから、というロジックが丁寧に描かれていき、ルルンという他者を鼓舞していく=ヒーローになっていく流れがうまい。


身近な素材でロボット自作 弱さ認める成長も

ばいきんまんの精神性を象徴するものとして、ロボット作りが細やかに打ち出されていくのも本作の特徴だ。すいとるゾウの侵略によって荒廃した世界で、鉄製の照明や家具などを見つけたばいきんまんは、鉄を溶かしてオノやノコギリといった工具を作製。メカニックとしてのスキルをフルに発揮し、地道な作業をコツコツと続けてウッドだだんだんを生み出してゆく。

本作は仲間も武器も失った状態に放り込み、ばいきんまんの〝強み〟を浮かび上がらせる構成になっており、それでも勝てない敵に対してアンパンマンとの共闘を申し出るという〝成長〟まで描いてみせる。さらには、そうしたばいきんまんの姿に心を動かされ、アンパンマンが自己犠牲の精神を発揮する熱いシーンも用意されている。従来の劇場版に比べてアンパンマンの登場シーン自体は少ないかもしれないが、抜群の話題性に加えてキャラクターの掘り下げや構成の妙が行き届いており、完成度はしっかりと担保されている。シリーズの歴史においても、異端の名作として愛されていくことだろう。

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ライター
SYO

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1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。

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