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2022.6.19
謹慎ジェームズ・ガン監督がサイテーヒーロー通して悪魔ばらい「ピースメイカー」:オンラインの森
次々とアメコミヒーロー映画が作られているが、破天荒なユーモアにあふれた作風で唯一無二の個性を見せつけたのがジェームズ・ガン監督。マーベルでははみ出し者ばかりの凸凹チームを描いた「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」を手がけて大ヒット。続編も成功させたが、思いがけない落とし穴が待っていた。2018年に10年前のツイッター投稿がヘイトやレイシズムにあふれていると告発され、マーベル及び親会社のディズニーから解雇されてしまったのだ。
SNSで悪ふざけ発覚 ディズニー出禁に
こういった告発には毀誉褒貶(きよほうへん)や賛否が渦巻くものだが、ガンは一貫して謝罪の姿勢を崩さず、準備中だった「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」3作目から降板させられる処分も粛々と受け入れた。ガンが悪ふざけで不快なジョークを楽しんでいた若気の至りを猛省する一方、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のキャストを中心にガンを擁護する声が高まり、19年3月には晴れて復帰が発表された。#MeToo運動で多くの映画人が告発されたが、過ちを認めた上で堂々と戻ってくることができた珍しいケースである。
ただし復帰までの約1年間、ガンがずっと謹慎していたわけではない。マーベル/ディズニーのライバル的存在であるDC/ワーナーが、「スーサイド・スクワッド」の第2弾の監督をオファー。引き受けたガンが「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」以上に破天荒で不謹慎なノリを解放して完成させたのが、昨年劇場公開された「ザ・スーサイド・スクワッド 〝極〟悪党、集結」である。この辺りの経緯は、アメコミ映画ファンや海外ゴシップを追っているひとなら周知のことだろう。
「ザ・スーサイド・スクワッド 〝極〟悪党、集結」では、DCコミックスに登場する敵キャラたちが頭に爆弾を埋め込まれ、強制的にチームを組まされる。そして政府の捨て石として極秘任務に就き、地球の危機に立ち向かうのだ。もともとが悪役だけに強烈な個性を持つキャラクターばかりだが、とりわけ憎まれ役を担っていたのが、プロレスラーから映画スターに転身したジョン・シナが演じたピースメイカーだった。
DCのクズ野郎主役のスピンオフ
ピースメイカーは、「平和のためなら誰でも殺す」が信条の自称ヒーローで、筋肉バカで女性蔑視のレイシスト。口を開けば問題発言ばかりだが、どこか無邪気で子供じみており、ジョン・シナの陽気な個性もあわさって嫌いになりきれないクズ野郎、という奇妙なバランスが成立していた。しかしクライマックスでは平和のため、任務のためと理由をつけて仲間を裏切り、「悪役が善行を積む」というコンセプトの中で、唯一悪人ポジションのままラストを迎えていた。
ガンはコロナ禍のロックダウン期間中に、特に実現の目算もないままピースメイカーを主人公にした続編の脚本を書き上げる。そしてDCから「ザ・スーサイド・スクワッド 〝極〟悪党、集結」のスピンオフ企画を相談されたことで、ピースメイカーのその後を描いた全8話のシリーズが実現した。現在U-NEXTで独占配信されている「ピースメイカー」である。
時代に取り残された人への共感
「ピースメイカー」は「人類に寄生する宇宙生物と戦う」といういかにもスーパーヒーローものらしい荒唐無稽(むけい)なストーリーで、ジェームズ・ガンらしい不謹慎で悪趣味な笑いが詰め込まれている。主人公ピースメイカーの不遜で子どもじみたイジメっ子キャラもますます健在だ。しかし回を重ねるごとに、映画では描かれなかったピースメイカーの思いがけない繊細さが堰(せき)を切ったようにあふれ出してくる。
なぜピースメイカー=クリストファー・スミスという男は、人種差別主義者で女性蔑視で人命軽視ですぐに陰謀論に飛びつくような、簡単にいえば〝嫌なヤツ〟になったのか? 過激な白人至上主義者の父親に育てられた少年時代、孤独や不満をゆがんだ愛国心や排斥主義でごまかそうとする現実逃避、男はマッチョであらねばならないという強迫観念……。ガンはシリーズを通して、ピースメイカーの精神構造を解析しながら、サイテー野郎がどこまでマシになれるのかをひと匙(さじ)の希望をもって描いている。
うがった見方かもしれないが、本ドラマはジェームズ・ガンがピースメイカーを通じて、間違いをしでかした自分の中の悪魔ばらいをしているように思えてくる。バカバカしくておかしくて、切なくて誠実。そして時代と社会から取り残された、名もなき人たちへの共感と優しいまなざし。なんて書くとちょっと褒めすぎな気もするが、このドラマを見た人にとって、ピースメイカーは今後もずっとちょっと面倒な愛されキャラであり続けるに違いない。すでに製作が決定しているシーズン2を心待ちにしたい。
U-NEXTにて見放題で独占配信中。