「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

「チャートの裏側」映画評論家の大高宏雄さんが、興行ランキングの背景を分析します

2021.1.14

チャートの裏側:枠超える客層の広がりは

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

映画界に、何度目かの試練のときである。先週発令された1都3県に及ぶ緊急事態宣言により、多くのシネコンがその地域で最終上映の終了を午後8時までとした。これで、大方の最終回が午後5時台になる。当然、影響が出る。日本海沿岸地域、西日本などの積雪も痛かった。

今の時期に、あえて作品に即した分析をする。13週ぶりに新作トップのアニメ「銀魂THEFINAL」だ。最終の興行収入で、10億円台の後半あたりか。もちろん、ヒットの数字だ。「鬼滅の刃」と連動した入場者プレゼント効果も大きい。ただ、ヒットは限定的だったとみる。

個人的には、なかなか面白く見た。ナレーションだけの展開のあとは、アクションのてんこ盛り。合間に有名アニメの引用も入る。終盤は、いかに「銀魂」を終わらせるかをめぐる奔放極まる描写の連続だ。何でもありの作品の暴走、解体ぶりが最終作(?)にふさわしい。

だが、興行となるとニュアンスは変わる。この過激なはみ出しぶりは、ファンには約束事に見えるかもしれないが、作品の世界観を知らない人には届きづらい。つまり、ファン主体の作品枠が厳としてある。実写版と違って、アニメ「銀魂」はそれでいいのだが、客層の広がりは難しくなる。確信犯だから、再度、それでいいのだが。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)