毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.10.21
チャートの裏側:想像力で楽しむ時代劇
司馬遼太郎の原作で、土方歳三を描く「燃えよ剣」は、公開3日間で興行収入2億9000万円を記録した。最終15億円以上が視野に入る。悪くないように見えるが、製作費が高いので、目標はもっと上だった。気になることがあった。客層に、ちょっとした変化がみられたのである。
まず、観客に女性が目立つことだ。時代劇というと年配者が多く、それも男性中心という傾向が強い。今回は、岡田准一や山田涼介ら人気俳優が出演している。加えて、幕末から明治にかけての時代設定はコミックやアニメーションで、女性層の関心が高い面もあると聞いた。
逆に、年配者が意外に少なかった。本作と同じ原作者、監督、主演の「関ケ原」(興収24億円、2017年)と比べて、この層の集客率が低い。時代設定もあると思った。戦国時代以降と幕末期では、前者のほうが注目度は比較的高い。年配者は、まだ映画館を控える人も多いようだ。
時代劇に限らず、史実にある程度のっとった作品は、誰を中心にするかによって、中身はまるで違ってくる。新選組側から描くか。長州、薩摩側から描くか。特に幕末から明治期となれば、今に通じる歴史認識も重要となる。ここは専門家でも意見が分かれる。「燃えよ剣」は、設定とは逆の側面に想像力を働かせても楽しめる作品である。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)