「Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む」 Netflixで独占配信中

「Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む」 Netflixで独占配信中

2022.3.06

オンラインの森 Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

筆者:

ひとしねま

須永貴子

国際ロマンス詐欺の手口暴くドキュメンタリー

 
近年、ネットやテレビのニュースでも報じられることが多くなった、国際ロマンス詐欺。EメールやSNSのダイレクトメッセージなどからやりとりが始まり、恋愛感情を抱かせたらあれこれ理由をつけて送金させる、特殊詐欺の一種だ。プロフィルはすべてフェイクで、実は組織的な犯罪であることが多いという。
 
Netflixの「Tinder詐欺師:恋愛は大金を生む」は、Tinder(ティンダー)というマッチングアプリを利用してターゲットを探す、実在するロマンス詐欺師を追ったクライムドキュメンタリー。詐欺師の男が、リアルでターゲットと接する手法が、多くのロマンス詐欺との大きな違いといえる。
 

ダイヤモンド会社の息子装い高級品で「俺様」演出

 
詐欺師の名前(のちに偽名のひとつとわかるが)は、サイモン・レビエフ。ティンダーのプロフィル欄によると、父親が経営するダイヤモンド会社の最高経営責任者(CEO)、つまり大富豪の御曹司。インスタグラムには、高級車と俺、ビジネスにいそしむ俺、プライベートジェットで移動中の俺、世界各地のパーティーをエンジョイする俺といった景気のいい写真がずらりと並ぶ。フォロワーはなんと10万人以上!
 
そのレビエフの被害に遭った3人の女性が、本作では顔出しでインタビューを受けている。そこに、彼女たちがレビエフとやりとりした大量の写真や、テキスト&音声&ビデオメッセージが重なって、レビエフが彼女たちに対して働いた詐欺が臨場感たっぷりかつ明快に再現される。
 
1人目は、ノルウェー出身でロンドン在住のセシリー。彼女は人生におけるプライオリティーを愛に置いていて、「美女と野獣」のようなロマンスを夢見ている。ティンダーは彼女にとって王子様を探す便利なツールというわけだ。2人は高級ホテルでのデートを経て、頻繁にメッセージを送り合う。レビエフは彼女に「南アフリカの刑務所にいたときの傷」を見せて同情を誘い、「7000万ドルのダイヤの危険な取引」が控えていると告げた上で「敵に襲われた」とケガをした自撮り写真を送りつけ、「クレジットカードを使うと敵に居場所がバレるから、俺のカードに君の口座をひも付けてくれ」と懇願する。ベルに憧れるセシリーが、「私が(王子を)助けなければ」と思ったとしても無理はない。
 

〝王子〟のために借金25万ドル

 
2人目は、ストックホルム在住のペルニラ。レビエフとは恋愛関係ではなく、楽しい時間をシェアする親友になり、費用は全てレビエフ持ちで、世界中を豪遊する。ベルニラは知らなかったが、その金の出所はセシリーの口座。セシリーはレビエフから連絡が入るたびにクレジットカードの限度額を上げ、9カ所でローンを組み、気づけば総額25万ドルの借金を背負っていた。ペルニラとレビエフが豪遊する光景が、レビエフがセシリーに金を振り込ませるやりとりとモンタージュされるくだりは、格差社会の残酷な構図に重なった。
 
野獣だと思った男性が実は王子だった「美女と野獣」とは異なり、セシリーが王子だと思ったレビエフは野獣どころかペテン師だった。セシリーはディズニープリンセスにはなれなかったが、レビエフが過去に数万人もの女性を相手に詐欺を働いたことを知り、クライム映画で犯人に反撃する主人公に変身する。ノルウェー最大のVG新聞社にネタと大量の証拠を持ち込むと、ジャーナリストたちが「スポットライト  世紀のスクープ」よろしく、レビエフを追い詰めていく。セシリー視点のストーリーが、記者たちによって客観的に整理されることで、レビエフの素顔、クレジットカードや小切手を使った詐欺の手口、協力者たちとの驚きの関係などが浮き彫りになっていく様が、実にスリリングだ。記者がレビエフの写真に写っているペルニラにコンタクトを取ると、彼女はレビエフから友情をたてに、大金を巻き上げられている真っ最中だった。
 

被害女性の共闘が放つ連帯のメッセージ

 
普通のロマンス詐欺と異なり、レビエフはインターネット上に自身の痕跡を残すことを恐れない。たとえ悪事の証拠につながったとしても、自身の華やかな生活をさらしてターゲットを信頼させる方が、姿を隠すよりもメリットが大きいからだろう。ここで思い出したのは「FYRE: 夢に終わった史上最高のパーティー」。ラグジュアリーな音楽フェスになるはずが、未曽有の大惨事に終わったファイア・フェスティバルの関係者に取材した、Netflixのドキュメンタリーだ。会場となる離島のビーチで、水着姿のモデル美女たちが笑顔を振りまくイメージ映像でフェスの開催を宣伝し、何も準備ができていないのに高額のチケットを販売し、首謀者のビリーは詐欺で有罪になった。ティンダーとインスタグラムを駆使するレビエフと、モデル美女の映像をインフルエンサーに拡散させたビリーには、イメージの力で金を生み出すスキルにたけた、病的なうそつきでありモンスターという共通点がある。
 
ビリーとレビエフが多くの人を信頼させたように、詐欺師は魅力的だし、魅力的でなければ詐欺師にはなれない。ペテン師を主人公にするのはたやすいが、本作は被害を受けた女性たちを主人公に据えているところに意味がある。恋愛と友情という違いはあるが、信じた人に裏切られた痛みを共有するセシリーとペルニラ、そして当時レビエフと交際中だった3人目の被害者、アムステルダム在住のアイリーンが共闘する、シスターフッド。それこそが、本作が描きたかったものではないだろうか。彼女たちの賢さと勇気、タフさ、そして連帯が放つメッセージが、一人でも多くの人に届いてほしい。

 

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