「ガールズ・ステイト」より 画像提供 Apple TV+

「ガールズ・ステイト」より 画像提供 Apple TV+

2024.4.15

米高校生対象のワークショップから社会の構造的問題を浮かび上がらせた「ガールズ・ステイト」「ボーイズ・ステイト」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

村山章

村山章

4月5日からApple TV+で配信が始まった「ガールズ・ステイト」は、2020年に絶賛を浴びたドキュメンタリー「ボーイズ・ステイト」に連なる姉妹編である。

ボーイズ・ステイトもガールズ・ステイトも、アメリカ各州で毎年開催されている高校生を対象にしたワークショップの名称だ。参加者は架空の2大政党のどちらかに振り分けられ、州知事の椅子をめぐって1週間がかりの模擬選挙を繰り広げる。プログラムに参加できるのは優秀な生徒の証しとされ、過去には若き日のビル・クリントン元大統領や、ブルース・スプリングスティーン、ジョン・ボン・ジョビといった後の有名ミュージシャンもいたという。
 

「ボーイズ・ステイト」より 画像提供 Apple TV+

サンダンス映画祭グランプリを受賞した「ボーイズ・ステイト」の姉妹編

映画「ボーイズ・ステイト」では、ある年のテキサス州のボーイズ・ステイトに密着取材。州知事に立候補した子どもたちは、まず所属政党を代表する知事候補を目指してキャンペーンを繰り広げるのだが、最もリベラルな生徒でさえも、アメリカ南部の保守的な土壌ゆえに、人工妊娠中絶や銃規制に賛成すればたちまち票を失うとわかっている。

地道に政策を語る者、本音を隠して〝勝てる選挙〟に注力する者、しょせんはガキのお遊びだとノリと勢いで乗り切ろうとする者、アプローチはさまざまだが、理念よりも戦術がものをいう選挙戦のあり方から民主主義の理想と現実が見えてくる、という趣向だった。

そして第2弾として生まれたのが、22年のミズーリ州でのガールズ・ステイトを取材した本作。この年のミズーリ州では、長い歴史で初めてボーイズ・ステイトとガールズ・ステイトが同じ場所、同じ日程で開催され、参加した女子高生たちはおのずとボーイズ・ステイトとの格差を意識することになる。

例えばボーイズ・ステイトで勝利すると、本物の州知事からじきじきに「ボーイズ・ステイト州知事」として任命される式典が行われるが、ガールズ・ステイトの勝者にそんな華やかな舞台は与えられない。

ガールズ・ステイトよりもボーイズ・ステイトの方が大規模で、予算も参加者数も多い。またひとつの大学キャンパス内で泊まり込むため、女子たちは単独で歩き回ることを禁止され、常に2人で行動しなければいけない「バディー制」なるものを押し付けられる。もちろん男子にそんな規制はなく、彼らは思い切りハメを外して楽しんでいるのである。


「ボーイズ・ステイト」と対比させると見える男女での議論のあり方の違いが興味深い

選挙の争点になるトピックも、女子と男子では興味の深さが違っている。おりしも22年の夏は、人工中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」が最高裁判所で覆されようとしていた時期。中絶の是非をめぐる論争で保守派とリベラル派が対立するのはボーイズ・ステイトと変わらないが、ガールズ・ステイトではより身近な議論となり、少女たちはただ対立するのではなく、対話によって議論を深めようと試みる。

彼女らにとっての喫緊の問題は中絶だけではない。500人ほどいる参加者全員がフェミニズムの闘士というわけではないが、社会の中で男性の後塵(こうじん)を拝したり、女性という役割を押し付けられてきた実体験が、彼女たちを結束させ、同じ目的に向かわせる。

結果的に映画「ガールズ・ステイト」は、激しい選挙ゲームよりも女性たちの「主張」についてのドキュメンタリーになっている。「ボーイズ・ステイト」の「ステイト」が、州や国家を象徴していたのとは対照的だ。

思えば「ボーイズ・ステイト」には、ティーンエージャーらしい愛嬌(あいきょう)や滑稽(こっけい)さをめでる青春コメディーの一面があった。しかし「ガールズ・ステイト」を見てしまうと、男子たちが滑稽でいられたのは、社会が男性のみに与えている特権だったのだと思えてくる。少なくとも女子たちの方が、より切実に当事者意識を持ち、具体的に未来像を描こうと奮闘しているように見える。お気楽にフザケていられる余裕はないのである。

「ガールズ・ステイト」は「ボーイズ・ステイト」と2部作になったことで、性差による差別や日常的なマイクロアグレッションといった社会の構造的な問題を明確に浮かび上がらせる。提示された諸問題はわれわれ自身のものでもあり、プログラムに参加した高校生たちに押し付けて済むことではないが、まずはこの2本の優れた青春映画をセットで楽しんでいただきたい。

Apple Original Films「ガールズ・ステイト」「ボーイズ・ステイト」はApple TV+にて好評配信中

ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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