毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.7.15
ボイリング・ポイント/沸騰
クリスマス直前のロンドン。高級レストランのオーナーシェフ、アンディ(スティーブン・グレアム)は、さまざまな問題を抱えていた。妻とは別居中で最愛の息子との約束を忘れ、たくさんの予約が入っているのに衛生管理官が抜き打ち検査にやってくる。アンディはストレスフルな一夜を乗り切れるのか?
レストランという空間を舞台のように切り取り、正真正銘のワンカットで撮影した人間ドラマ。テーマと表現がぴったり合い、テクニックを忘れさせるほど臨場感と没入感にあふれる。映像の完成度の高さもさることながら、無駄のない脚本も見事。
過酷な労働環境や人種差別、SNSの拡散力をちらつかせるインフルエンサーなど、スタッフと客を鮮やかに描き出す。監督はシェフとして働いた経験を持つというフィリップ・バランティーニ。おいしそうな料理があまり登場せず、グルメ映画として楽しめなかったのは残念だが、衝撃的なラストまで一気に見せ切った。1時間35分。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)
ここに注目
驚異的な技巧を駆使した疑似ワンカット映画「1917 命をかけた伝令」「バードマン」のような派手さはないが、全編にみなぎる緊迫感、感情の迫真性はピカイチ。人間関係のしがらみや客の横暴な態度など、職場の〝あるある〟が満載され、共感する観客が続出するのでは。(諭)