「ビール・フェスタ 無修正版 ~世界対抗・一気飲み選手権」©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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2023.3.28

〝ビデオレター〟が導く戦闘意欲 ビール大飲コメディーと「シン・仮面ライダー」:勝手に2本立て

毎回、勝手に〝2本立て〟形式で映画を並べてご紹介する。共通項といってもさまざまだが、本連載で作品を結びつけるのは〝ディテール〟である。ある映画を見て、無関係な作品の似ている場面を思い出す──そんな意義のないたのしさを大事にしたい。また、未知の併映作への思いがけぬ熱狂、再見がもたらす新鮮な驚きなど、2本立て特有の幸福な体験を呼び起こしたいという思惑もある。同じ上映に参加する気持ちで、ぜひ組み合わせを試していただけたらうれしい。

髙橋佑弥

髙橋佑弥

公開翌週、平日夜に「シン・仮面ライダー」(2023年)を見終えてから、家に帰ってビールを1杯……ぐび、ぐび、と飲み進めるうち、そういえばと思い出したのが飲酒喜劇映画の「ビール・フェスタ~世界対抗・一気飲み選手権」(2006年)である。
 
とはいえ、別に特段似ているわけではない。いうまでもなく、「シン・仮面ライダー」の監督である庵野秀明が影響を受けたというのでもないはずだ。一方が、もう片方の理解を補完してくれるわけでもなし。けれど、そんな隔たった映画がふと思い浮かんでしまうのもまた、映画館の暗闇に身を委ねる快楽にほかならない――なにも映画館に限った話ではないけれども。むしろ、深まらないはずなのに、併せ見ることでそれぞれがなぜか余計にたのしくなってくるのがすてきじゃないか、と思うのである。
 


目まぐるしくライダー登場

開幕早々、男と女がバイクを走らせ追っ手から逃げている。画面はザクザクと細かく刻まれて、あらゆる場所から撮られたショットが次から次へと現れては去り、われわれ観客の処理能力を手いっぱいにする。あれよあれよという間にバイクは崖から転落、下には追っ手の一団、あっという間に女――追っ手のセリフから、女が裏切り者=脱走者なのだとようやく分かる――は囲まれ絶体絶命、のところで先の男が変身した仮面ライダー初登場、瞬く間に一団を血染めの皆殺し。
 
かように「シン・仮面ライダー」は疲れる映画である。上記の冒頭部はあくまで一例に過ぎないが、全編を通して状況が理解に先行して、説明が後から補われる。編集は目まぐるしく、撮影素材の視点も散乱している。とりわけ近接格闘の多くは、あまりに細断されているために動体視力を試されているかのようだ。あるていど意図的な作劇なのは明らかだが、異物感あるイビツな映画には違いない。
 

記憶に残るのは落ち着いた場面

そんな本作にあって、例外的に落ち着いた画面が続くのが、後半で描かれるビデオレターの場面だろう。命を落としたある人物が生前ひそかに撮影していた遺言とでもいうべき動画を、主人公=本郷猛が見るのだ。面白いのは、この動画がライダーマスク内に残されていたことで、当然の成り行きとして主人公はマスクをかぶって――VRゴーグルを思い浮かべていただければよい――見ることになるし、故人がカメラへ向けて正面から語りかけている映像は必然的に視界を満たすことになる。われわれが目にするのもまた、マスクを通じて主人公が目にしているはずの、固定カメラに向けて心中を語る亡き登場人物の姿である。
 
全編、画面が慌ただしく推移する本作のなかで、この場面が印象に残るのはある意味では当然だ。安定した像が、長く映っているという一点だけでも記憶に残る要因になりうる。また、主人公はこのビデオレターに突き動かされるかたちで以降の行動を決心することになるのだから、物語のなかで果たす役割も大きい。記憶に残る印象的な場面であることが、人物にとっての重要性を支える、もの言わぬ説得力になっている。

 

「ビール・フェスタ 無修正版 ~世界対抗・一気飲み選手権」©2007 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


遺言から始まる「ビール・フェスタ」

本稿冒頭で触れた「そういえば」は、これだ。「シン・仮面ライダー」と似ても似つかない、ジェイ・チャンドラセカール監督作「ビール・フェスタ~世界対抗・一気飲み選手権」は、まさに遺言ビデオレターで始まる映画なのである。
 
それが流れるのは葬儀中のことだ。参列者らの前で神父が「故人が生前に残したビデオが……」と再生するわけである。そこには、病院と思われる一室でベッドに腰掛けた初老の男性――演じているのは、なんとドナルド・サザーランドである――が映っており、彼こそが葬儀の渦中にある「故人」なのだが、鼻にチューブが着けられているほかは一見健康そうに見える陽気さで、カメラに語りかけるあいだも、なぜそこにあるのか皆目見当もつかないジョッキでビールを3杯も飲み干したりしながら、この世と残された家族に別れを告げる。
 
本作の主人公は、この男のふたりの孫である中年の兄弟である。彼らは、遺灰を「一家のしきたり」の場所にまくため出かけた旅先で、祖父が元々はビール醸造所をもつ名門一族と血縁/確執がある事実を知ることになり、紆余(うよ)曲折の果てに、仲間を集めてビールフェスタ=「世界対抗・一気飲み選手権」を目指すことになってしまう。

主人公を駆り立てる反論不能の言葉

結局は受け取る側の心持ち次第のはずなのだが、結果的には両作ともに、主人公がビデオレターの遺言に突き動かされる展開になっているのが面白い。思えば、そもそもどちらも巻き込まれ型の映画である。残した人物が故人であるために反論不能の遺言が、なかば静かな強制力となって次第に使命感に変わるのだ。
 
どちらの映画もクライマックスは一度敗れた相手へのリベンジ。しかも主人公にとって雪辱を果たす対決であるのみならず、ビデオレターを残した者にとっての因縁を代わって晴らす戦いでもある。加えて、亡き者の意志を次いで戦いに赴く決意をする、また別の人物も登場する。
 
いずれも後半のことだから詳しくは触れないが、単なる思いつきで映画を並べてみても、じつは共通点がいくつもあったりするのは珍しくないのが不思議なところだ。結局は、映画そのものが似ているというよりも、自らの思考、すなわち作品から特徴を看取する感覚にパターン性があるのかもしれない。映画について思いをめぐらせることは、それを見る自分について考えることでもある。
 
そんなことをふわふわと考えながら、その夜はビールを飲み終えたのだった。

「シン・仮面ライダー」は全国公開中。
「ビール・フェスタ~世界対抗・一気飲み選手権」はU-NEXTで配信中。

ライター
髙橋佑弥

髙橋佑弥

たかはし・ゆうや 1997年生。映画文筆。「SFマガジン」「映画秘宝」(および「別冊映画秘宝」)「キネマ旬報」などに寄稿。ときどき映画本書評も。「ザ・シネマメンバーズ」webサイトにて「映画の思考徘徊」連載中。共著「『百合映画』完全ガイド」(星海社新書)。嫌いなものは逆張り。