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2024.7.25
高視聴率韓国ドラマの日本版 イ・テラン演じた「あの場面」を木村文乃は……⁉ 「スカイキャッスル」
テレビ朝日系の連続ドラマ「スカイキャッスル」は、韓国で高視聴率を記録した「SKYキャッスル 上流階級の妻たち」の日本版リメークだ。動画配信サービスで韓国版を見ていたので、日本版をやると聞いた時、驚いた。韓国版は知る人ぞ知る名作だが、韓国と日本では社会の実情に違いがある。「あの設定」や「あのシーン」は果たして、どうするのだろう……。「本家」と比較しての注目ポイントを紹介する。
高級住宅街で勃発するセレブ妻たちの「お受験」バトル
日本版「スカイキャッスル」のあらすじはこうだ。高級住宅街・スカイキャッスルの住人、浅見紗英(松下奈緒)や二階堂杏子(比嘉愛未)、夏目美咲(高橋メアリージュン)は、いずれも名門「帝都病院」の医師を夫に持つセレブ妻だ。彼女たちがメラメラと闘志を燃やしているのは「お受験」。我が子を超難関の帝都医大付属高校に入学させるべく、家族ぐるみでしのぎを削る。そのスカイキャッスルに、紗英たちとはちょっと違う素朴さと正義感を持った女性、南沢泉(木村文乃)の家族が引っ越してくる。さらに、担当した生徒を100%合格させるという謎の受験コーディネーター、九条彩香(小雪)が登場。セレブ妻たちが織りなす、ドロ沼のマウントバトル――。
韓国版主人公のハン・ソジン(ヨム・ジョンア)をはじめ、物語の軸になる5人の女性(SKYキャッスルに住む妻4人と受験コーディネーター)の設定は、日本版でもほぼ踏襲されている。こちらでは、我が子をソウル大医学部に入れるために奮闘する。韓国の大学入試は推薦入試が日本よりポピュラーで、高校での内申点やボランティア活動などの経歴が重視されるため、妻たちがソウル大医学部に合格した受験生のポートフォリオ(経歴書)の中身を知ろうと必死になる場面が出てくる。前述のスゴ腕「受験コーディネーター」の登場後は、彼女を巡って家族どうしの「争奪戦」になる。
「スカイキャッスル」の浅見紗英(松下奈緒)=テレビ朝日提供
韓国版は初回1.7%から最終回23.8%へ
18~19年に韓国のケーブルテレビ局「JTBC」で放送され、初回の視聴率はわずか1.7%だったが、徐々に人気に火がつき、最終回の視聴率は23.8%まで上昇。地上波テレビ以外の連ドラでは歴代最高視聴率(当時)だったという。ちなみに、日本の動画配信サービスのユーザーをとりこにした「愛の不時着」(20年)は、別のケーブルテレビ局の制作で、最終回の視聴率は21.7%だった(韓国は日本以上に、ケーブルテレビ局や配信オリジナルでヒットするドラマが多い)。「SKYキャッスル」は日本でもBSチャンネルなどで繰り返し放送され、現在もNetflixなどの動画配信サービスで視聴が可能。
この「SKYキャッスル」をきっかけに、韓国における「SKY」の意味を知ったという人が、日本にもそれなりにいそうだ(記者もそうだった)。「S」は国立最難関のソウル大学、「K」は私立の高麗(コリョ)大学、「Y」は同じく私立の延世(ヨンセ)大学の略で、日本に例えると、入学の難易度や学内の雰囲気などがそれぞれ東京大、早稲田大、慶応大に似ているのだそう。韓国は日本以上の「学歴社会」で、大学入試に向けて受験生だけでなく、親も我が子の合格のために多額の「投資」をする……といったニュースを時折耳にする。日本人が想像する以上に、「SKY」の出身であることは、韓国社会では大きな意味を持つらしい。ドラマのSKYキャッスルは、名門「ジュナム大学病院」の医師やその家族らが入居する高級住宅街という設定だ。
「スカイキャッスル」=テレビ朝日提供
大学受験から高校受験に設定変更
さて、記者が気になっていた「あの設定」だが、韓国版と日本版では、やはり違っていた。前者での「受験」は大学入試(子供たちは高校生)だが、後者は高校入試(子供たちは中学生)に変更されている。日本では、親が大学受験のために子を塾に通わせたり、家庭教師をつけたり……というのはあるとして、親が「立派」なポートフォリオの作成に躍起になったり、受験コーディネーターに指導を懇願したり……というのは現実感が出ないだろう。高校の入試なら、まあ想像がつくだろうか。
また日本版の紗英には、ひた隠しにしている過去の秘密がある。「スカイキャッスル」第1話には、高級住宅街に引っ越してきた泉(木村)が、初めて出会ったはずの紗英に「以前、どこかでお会いしてません?」と問いかけ、紗英が「人違いじゃないですか!?」と応じる場面が出てきた。韓国版にイ・テランとヨム・ジョンアが演じる、ほぼ同じシーンがある。紗英の秘密が韓国版と同じなら、周囲にバレたら「致命傷」だが、真相は何話目に明らかになるのだろう。
背筋の寒くなりそうな展開が……
あるいは同じ第1話で、スカイキャッスルに住むある人物が非業の死を遂げる。その場面は韓国版にも出てくるが、亡くなった原因が両者では違っている。日本の視聴者に向けてショックを和らげようとしているのか……と想像したが、どうだろう。ついでに言えば、韓国版の主人公の夫で医師、カン・ジュンサン(チョン・ジュノ)と日本版の紗英の夫、浅見英世(田辺誠一)は、メガネにひげの風貌がとてもよく似ている。作中での人柄も似ているのか、どうか。「SKYキャッスル」で繰り広げられたセレブ妻たちの言い争いの場面や、登場人物の間に緊張の糸が見えそうなあの場面も、日本版で十分に再現されるのか……。
放送開始前の7月22日、東京・六本木ヒルズアリーナで制作発表記者会見があり、主演の松下らが登壇した。受験コーディネーター役の小雪は「『欲』や『憎しみ』、いろんなものが渦巻く群像劇。(女性5人の)それぞれの登場人物に秘密があって、それを隠したり暴こうとしたり、欺こうとしたり。この夏にピッタリの、涼しい気持ちになってもらえる作品です」とアピールしていた。涼しいというより、猛暑にも背筋の寒くなりそうな?物語の行方は、果たして。