「ミッドナイト・ラン」©1988 Universal Studios. All Rights Reserved.

「ミッドナイト・ラン」©1988 Universal Studios. All Rights Reserved.

2023.1.25

あの偉大な名優が「出演作で最も好き」 「ミッドナイト・ラン」:謎とスリルのアンソロジー

ハラハラドキドキ、謎とスリルで魅惑するミステリー&サスペンス映画の世界。古今東西の名作の収集家、映画ライターの高橋諭治がキーワードから探ります。

高橋諭治

高橋諭治

賞金稼ぎと聞けば、映画ファンなら誰もが首に報奨金がかかったお尋ね者をつけ狙う西部劇のガンマンをイメージするだろう。ところがアクションコメディーの「ミッドナイト・ラン」(1988年)で描かれたのは、当時における〝現代のバウンティハンター〟だ。ロバート・デ・ニーロふんする主人公ジャック・ウォルシュの雇い主は、犯罪者に保釈金を貸し付ける特殊な金融業者。もしも犯罪者が保釈期間中にどこかへトンズラし、裁判所に出頭しなかったら、保釈金は返還されず業者は大損を食らうことになる。
 

キーワード「乗り物による迷走」

そこでウォルシュの出番だ。今回の捜索すべき相手は、マフィアの資金を横領して慈善団体に寄付した変わり者の会計士マデューカス(チャールズ・グローディン)。10万ドルの報酬で仕事を請け負ったウォルシュは、裁判までの5日間以内にマデューカスをロサンゼルスに連れて来なくてはならない。かつての刑事時代につちかった嗅覚でニューヨークに潜伏していたマデューカスをまんまと捕まえたウォルシュだが、マデューカスが飛行機恐怖症だったため、陸路でロサンゼルスをめざすことになり……。
 
「ミッドナイト・ラン」は〝一夜で片付く簡単な仕事〟を意味するスラング。しかしマデューカスに手錠をかけて特急列車に乗ったウォルシュの行く手には、マフィアが放った殺し屋コンビ、報酬の横取りをもくろむライバルの賞金稼ぎ、さらには大規模な捜査網を敷いたFBI(米連邦捜査局)が待ち受ける。やむなくウォルシュは走行中の列車から飛び降り、長距離バスや自動車に乗り換えて移動を試みるが、無数のパトカーや武装ヘリに追われて迷走を重ねるはめになる。
 
ロードムービーには〝乗り物〟が付きものだが、本作でウォルシュらが繰り広げるアメリカ横断の旅に登場する多彩な乗り物は、ことごとく乗り捨てられ、時にはカーチェイスや銃撃で粉砕されることになる。それでもこの仕事を最後に引退を考えているウォルシュは、次々と現れるマヌケな追っ手をけむに巻きながら、場当たり的に調達した乗り物でいくつもの州境を越え、ロサンゼルスをめざしていく。ダニー・エルフマンによるロック調の軽やかな音楽と相まって、実におおらかで小気味よく、爽快なアクション&ロードムービーだ。
 

チャールズ・グローディン起用が成功

イケイケの時代だった80年代には、「48時間」(82年)や「リーサル・ウェポン」(87年)のような陽性のポリスアクションが人気を博した。エディ・マーフィー主演の「ビバリーヒルズ・コップ」(84年)で大ヒットを飛ばしたマーティン・ブレスト監督は、その次の企画として本作に取り組んだ。
 
当時のロバート・デ・ニーロは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」(84年)やアル・カポネを演じた「アンタッチャブル」(87年)などのヘビーな役どころで〝演技の鬼〟ぶりを遺憾なく発揮していたが、本作では肩の力を抜いたコミカルな新境地を披露。ブレスト監督のお手柄は、デ・ニーロの相手役にチャールズ・グローディンを指名したことだった。


演技巧者のアンサンブル

地味な風貌のグローディンの起用に商業的メリットは乏しかったが、デ・ニーロとグローディンは共にリー・ストラスバーグのアクターズ・スタジオ出身で相性が抜群だった。喜怒哀楽の激しいウォルシュと知的でずる賢くもあるマデューカスの掛け合いはまさに抱腹絶倒で、バディームービーとしても絶品の仕上がりとなった。
 
さらに、ウォルシュに身分証を盗まれて赤っ恥をかくFBI捜査官(ヤフェット・コットー)、しぶとい賞金稼ぎ(ジョン・アシュトン)、がめつい金融業者(ジョー・パントリアーノ)、いつもイライラしているマフィアのボス(デニス・ファリーナ)を加えたアンサンブルも秀逸。芸達者な声優たちがいい仕事をしている日本語吹き替え版で見れば、なおさら味わいが増すだろう。
 

たばこ嫌いもなんのその

当初はいがみ合っていたウォルシュとマデューカスは、危険な旅のさなかに男同士の友情を育んでいく……という筋立てに意外性はまったくない。むしろ万事都合のいい展開なのだが、あらゆるエピソードが小粋に描かれ、ほろりとさせる場面もある。ウォルシュが旅費をせびるために元妻の家に寄り道し、10代に成長した娘と対面するシーンには、気性の荒い一匹狼オオカミのバウンティハンターの切ない親心がにじむ。そして波瀾(はらん)万丈の旅の終着点のロサンゼルスには、胸に染み入るエンディングが用意されている。
 
当時すでに「ゴッドファーザーPARTⅡ」(74年)、「タクシードライバー」(76年)、「ディア・ハンター」(78年)、「レイジング・ブル」(80年)で4度アカデミー賞にノミネートされ、そのうち二つのオスカー像を手中に収めていたデ・ニーロは、その後もハリウッドを代表する名優として活躍を続ける。徹底した役作りの逸話も数知れないこの大物俳優は、私生活ではたばこが大嫌いだという。そんなデ・ニーロが公言した「最も好きな出演作」は、マルボロが手放せないヘビースモーカーの賞金稼ぎを楽しげに演じた「ミッドナイト・ラン」なのであった。
 

「ミッドナイト・ラン」はNBCユニバーサル・エンターテイメントからブルーレイ発売中。4620円。

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ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。