「すずめの戸締まり」©2022「すずめの戸締まり」製作委員会

「すずめの戸締まり」©2022「すずめの戸締まり」製作委員会

2022.11.18

特選掘り出し!:「すずめの戸締まり」 災いが噴き出した世界で

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

新海誠監督が、資質を思いのまま羽ばたかせ、大きな器いっぱいに盛り付けた。地味なタイトルと正反対の壮大な新海節だ。

九州の海辺の町に住む17歳の鈴芽(声・原菜乃華)は、災いが噴き出る「扉」にカギをかける〝閉じ師〟の草太(声・松村北斗)と出会い、日本中の廃虚にある扉を閉める旅に出る。

ボーイ・ミーツ・ガールの出だし、九州から始まる写実的な日本各地の風景、序盤から畳み掛ける映像のスペクタクル。イケメンとして登場した草太がイスに変えられるとか、可愛いけど恐ろしい、人語を話す猫のダイジンとか、アニメならではの仕掛けを駆使して物語をグイグイと進めてゆく。

普通の女子高生としゃべるイスの冒険という設定こそ宮崎アニメ風だが、話がどんどん膨らむのが新海印。扉から噴出した災いは大地を揺るがし破壊する力を持ち、やがて東京にある扉が開く。

鈴芽と親代わりの叔母との関係、閉じ師の血統を背負う草太といった個の物語を横軸に、救世を懸けた大活劇へ。展開が壮大な一方で、視点は個人的感傷にとどまって、これぞセカイ系の到達点か。2時間1分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほかで公開中。(勝)