毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.8.26
「サマー・オブ・ソウル」
1969年夏、ウッドストックと同時期に開催され、スティービー・ワンダー、B・B・キング、マヘリア・ジャクソン、グラディス・ナイトらそうそうたる黒人アーティストが集結し、延べ30万人を集めたブラックミュージックの祭典「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」の音楽ドキュメンタリーだ。
半世紀もの間埋もれていたフィルムからは、当時のライブの雰囲気やファッションからカルチャー全般があふれる。前年に起こったキング牧師の暗殺、公民権運動への弾圧など黒人が直面していた闘争の歴史も挟み込まれ、現在のブラック・ライブズ・マター運動につながる社会変革と解放の歴史にも思いをはせる内容。当時の参加者の証言なども交えた驚くほど鮮明な映像からは、音楽が文化や社会をも変えるパワーと熱量を感じさせる。サンダンス映画祭でドキュメンタリー部門の審査員大賞と観客賞を受賞。グラミー賞受賞のアミール・クエストラブ・トンプソン監督。1時間58分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴)
ここに注目
開催の背景には、黒人らによる暴動抑制の意図があったそう。大きなイベントが政府や社会への不満をそらす役割を果たすのは、50年前も今も一緒だと痛感。それはさておき、かなしみや苦しみを内包する黒人音楽がステージ上ではじけることで生まれる喜び、熱気に圧倒された。(倉)