毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.2.18
チャートの裏側:変化球、勢いよくヒットに
意外な伏兵が現れたと言うべきか。「名探偵コナン緋色(ひいろ)の不在証明」が2位につけた。劇場版の新作ではない。すでにテレビ放映された作品の特別総集編だ。新作に必要な製作費、宣伝費は免れている。旧作ではないが、昨年のスタジオジブリ作品のブランド人気と重なる。
純然たる新作では「ファーストラヴ」が、もう少し伸びてほしかった。ある事件にかかわる女性の過去を追っていく。形としてはサスペンス劇で、よく作ってある。ただ娯楽映画として見ると、少しきつい題材、雰囲気があった。伸びない理由の一つが、そこにある気もした。
「すばらしき世界」は、人生の大半を刑務所で過ごした男の話だ。出所後、まともに暮らそうとするが、なかなか危なっかしい。本作は、男の行動の揺れ動きを描いて、まさに素晴らしい。今の時勢でなければ、共感を抱く年配者が、もっと多く映画館に足を運んだと思う。
3週トップの「花束みたいな恋をした」の勢いには驚いた。前々回、変化球型の恋愛映画に慣れていない女性たちの本作に対する「見極めが気になる」と書いた。杞憂(きゆう)だった。変化球が、柔軟な対応能力で打ち返された感じだ。男女問わず、作風を超えた恋愛ものの訴求性の強さを感じる。興行収入25億円以上が見えてきた。快挙である。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)