毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.3.17
「The Son/息子」
優秀な弁護士のピーター(ヒュー・ジャックマン)は、再婚した妻(バネッサ・カービー)と生まれたばかりの子供と忙しいながらも幸せな毎日を過ごしていた。ある日、離婚した妻(ローラ・ダーン)と暮らす17歳の息子、ニコラス(ゼン・マクグラス)から、父親の家に引っ越したいと懇願される。同居生活が始まるが、ピーターは学校に通わず自傷行為をやめられない息子とぶつかりあう。
「ファーザー」のフロリアン・ゼレール監督が脚本も手がけた人間ドラマ。「ファーザー」で認知症を患う父を演じたアンソニー・ホプキンスが、ピーターの父として出演する。父と息子の関係における理想と抑圧、思春期の子供の不安定さ、そして心の病。すべてが等しく描かれるため、監督が何を最も訴えたかったのか焦点がぼやけた印象も受けた。しかしこの物語を見届けたとき、それらすべてが密接につながっているがゆえに引き起こされた悲劇だと、痛いほど伝わってくる。2時間3分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(細)
ここに注目
実に豊かな感情が揺らめく映画だ。父と子がリビングルームでダンスに興じるシーンは幸福感に満ちているが、彼らの日常には常に不穏な予兆が渦巻き、ふとした弾みでそれが表面化、暴発する。繊細な映像と迫真の演技に引き込まれ、心の病という問題の複雑さを体感する一作。(諭)