「理想のふたり」

「理想のふたり」© 2024 Netflix, Inc.

2024.9.22

<ネタバレあり>「理想のふたり」 美しい島のセレブ一家がさらけ出すドス黒い金と性

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勝田友巳

勝田友巳

Netflixで独占配信中のシリーズ「理想のふたり」は、風光明媚な島で米国のセレブ一家に起きた事件を描くミステリーだ。ニコール・キッドマン、ダコタ・ファニング、リーブ・シュレイバー、それにイザベル・アジャーニらが出演し、全員に容疑がかかる豪華な犯人捜しもさることながら、物語の進行につれて一族の複雑な人間関係や秘密が明かされてゆく群像劇として素晴らしい。人の本性は金とセックスと喝破する皮肉で乾いた人間洞察にゾクゾクさせられるのである。


結婚式前夜のウィンバリー家に起きるおぞましい事件

物語の舞台となるのは、マサチューセッツ州ナンタケット島に建つウィンバリー家の豪邸だ。次男のベンジー(ビリー・ハウル)とアメリア(イブ・ヒューソン)との結婚を祝うため、親族や友人たちが集まってくる。ところが結婚式前夜、浜辺で死体が見つかり、集まった人々は島に足止めされ、警察の捜査が始まる。

第1話はたっぷりと、登場人物の紹介に費やされる。ウィンバリー家に集まるのは、島の美しい風景がよく似合う華やかなセレブたち。当主タグ(シュレイバー)と妻で人気作家のグリア(キッドマン)はおしどり夫婦で通っている。長男トーマス(ジャック・レイナー)はアビー(ダコタ・ファニング)と結婚し、もうすぐ子どもが生まれる。三男ウィルはまもなく18歳。結婚式の付添人として、アメリアの親友メリット(メーガン・ファヒー)、ベンジーの親友シューター(イシャーン・カター)が到着、一家の友人であるイザベル(アジャーニ)、アメリアの両親も顔をそろえる。

結構な人数だが、面倒くさがらずに人物相関を頭に入れておこう。ドラマが進むにつれて、登場人物同士が意外なところで結びつき、過去の因縁や現在の苦境、秘密や本音が明かされる。取り繕った上流階級の不品行が暴かれ、裏の顔がさらされていくのだ。超リッチな生活ぶりに併せて、演技巧者の俳優陣が演じる〝恥部を暴露されたセレブ〟の、開き直ったり動揺したりといったリアクションも、見どころ。特に、孫の誕生間近なベストセラー作家を演じたキッドマンは、人間離れした美しさと高慢なまでの気高さで圧巻だ。


<ネタバレここから>ドロドロの人間関係相関図

さて、ここからは少々ネタバレ。第2話以降、ウィンバリー家に集まる人たちの隠し事が、次々と暴かれる。死体はアメリアの親友メリットで、他殺らしい。育ちが良くて人当たりのいいタグは女好きの浮気者。グリアに臆面もなく愛を告げながら、知り合った女性たちと軒並み関係を持っている。プライドの高いグリアはタグの性癖を知りつつ、幸福な一家のイメージを保つことに腐心するばかり。そして中産階級出身のアメリアの一挙手一投足が気に入らない。

そんなグリアを前にして、アメリアは居心地の悪さと反発を感じ、身分違いのベンジーとの結婚を迷い始め、目の前に現れた別の異性に心を動かす。どら息子のトーマスは金銭トラブルを抱えている上に不誠実、出産間近のアビーはウィンブリー家の財産目当てで際限ない欲望を隠さない。奔放なフランス人イザベルは、ウィンバリー家の男たちとも関係を持っているらしい。そしてアメリアも知らなかったメリットの秘密……。


スサンネ・ビア監督の本領発揮

ウィンバリー家には巨額の財産があるものの信託に付され、一番下の子どもが18歳になるまで自由にできない。1話ごとに、集まった人々の誰もが事件を起こす動機となりかねない事情を抱えていることが分かってくる。そしてそれがみな、突き詰めれば金とセックスなのである。世間と遊離した金持ちたちは〝永遠の愛〟を口にしながら、その身勝手さと傲慢さで欲しいものにためらいなく手を伸ばす。犯行のトリックや追い詰められていく犯人の心理といったミステリーをしのぐほど、人間の業の深さをのぞき込むスリルが膨らんでゆく。最終回ではもちろん真相が明かされるのだが、その意外な犯人よりも、衝撃的なのはそれまでに目のあたりにした深淵(しんえん)の闇の方だ。

米国でベストセラーとなった、エリン・ヒルダーブランドの小説が原作という。監督は「アフター・ウェディング」(2006年)、「未来を生きる君たちへ」(10年)などの映画で、善悪のはざまを見つめ複雑な人間模様を描いてきた、デンマーク出身のスサンネ・ビア。スリリングな物語を語りながら、人間心理をじっくりと描き込むことで奥行きと深みを与えて高い評価を得ている。「理想のふたり」では全6話の尺を得て、多くの登場人物の陰影を丹念に見せていく。ナンタケット島の明るい日差しに、ドロドロした人間の闇はひときわ暗いのである。

Netflixシリーズ「理想のふたり」は独占配信中

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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