「GEMNIBUS」について話す馮年(左)、栢木琢也両プロデューサー。馮プロデューサーは滞在中のロンドンからオンラインで取材に応じてくれた=2024年6月、勝田友巳撮影

「GEMNIBUS」について話す馮年(左)、栢木琢也両プロデューサー。馮プロデューサーは滞在中のロンドンからオンラインで取材に応じてくれた=2024年6月、勝田友巳撮影

2024.6.27

あの東宝が新人発掘、育成⁉ 「リターンよりも投資」若手起用「GEMNIBUS」の本気度

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勝田友巳

勝田友巳

「新人の発掘と育成を」――。日本映画界の長年の懸案に手を挙げたのが、あの東宝だというから驚いた。〝おいしい〟原作ものやテッパンIPの大作を、実績と経験を重ねた監督に任せるという盤石の体制で業界トップを独走。安全志向のオイシイとこ取り、とやっかみ半分の陰口も聞こえていたが、その東宝が「オリジナルの企画をヒットさせられる新人を育てる」と宣言し、最初の成果として6月28日、4人の新人監督のオムニバス「GEMNIBUS vol.1」が公開される。「リターンよりも未来への投資」と風呂敷を広げ、「vol.1」とあえて強調する本気モード。その意気込みやいかに。


撮影所システムの崩壊で育成の道険しく

新人育成は日本映画界の長年の課題だ。1970年代に映画会社が製作から手を引き始めるまでは、東宝を含む映画会社の撮影所で社員監督を育てる仕組みがあった。映画製作のイロハを徒弟制の中でたたき込まれ、毎週公開する新作を次々と作る中からあまたの傑作、名作が生まれてきた。小津安二郎も黒澤明も、山田洋次も大監督はそうして育ったのだ。
 
しかし映画界が斜陽化してから撮影所の人材育成機能が失われ、もっぱら自主製作やフリーの助監督として〝自主トレ〟するか、他業種からの参入に頼っている。〝新人監督の登竜門〟としてあまたの監督を輩出した「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」や、2005年に発足した東京芸術大大学院映像研究科、映像産業振興機構(VIPO)が2006年から取り組む「ndjc若手映画作家育成プロジェクト」など例はあるものの、背中を押して送り出すまで。その後の支援までは及ばず、結果的に〝勝手に育った才能の果実を製作側が摘み取る〟といった図式が定着している。自由で多彩な作品を生むことになった半面、総じて小粒。韓国のような世界に通用するエンタメ大作が生まれにくくなってしまった。


GEMNIBUS vol.1「ゴジラVSメガロ」©️2024 TOHO CO., LTD.

若手の声受けて新プロジェクト

ここ10年以上、興行成績においてぶっちぎりで他社を引き離す東宝も、その恩恵にあずかってきた。2023年は24作を配給し、日本映画の興収上位10本のうち8本、ヒットの目安となる興収10億円以上の18本に絡んだ。年間興収774億円は日本映画の総興収の3割以上。大作の企画はまず東宝に持ち込まれるのが当たり前、という状況だ。しかし、手がける作品は人気マンガやドラマの映画化が大半で、監督はヒットの実績があるか、演劇界やテレビ界で経験を積んだ中堅やベテランに限られていた。全国300スクリーン規模の公開作を新人には任せにくく、といって自前で育てるすべもなかった。
 
そうした中、「それでいいのか」と心配する声が東宝内部の若手から上がる。これを受け19年から「GEMSTONEクリエイターズオーディション」を開催、Youtubeを舞台に作品を公募した。21年にはTikTokと組んで「TikTok TOHO Film Festival」を開始し、23年には集英社と「東宝×ワールドメーカー短編映画コンテスト」を開催。多くの監督志望者との出会いを重ね、23年、「GEMSTONE Creative Label」を発足させた。社内の入社10年までの社員から部署横断で募集したプロデューサーで編成した、才能支援を目的としたチームだ。


GEMNIBUS vol.1「knot」©️2024 TOHO CO., LTD.

オリジナル企画をゼロから立ち上げ

同レーベルがまず取り組んだのが、短編映画の製作だ。監督志望者から4人を抜てき。原作のないオリジナルの企画をゼロからプロデューサーと練り上げ、スタッフ、出演者は東宝の本番線と同様の座組みを用意した。「いきなり300館規模の作品では荷が重い。まずは小さめの打席での挑戦から」と、Youtubeなどでの限定公開を予定していたが「大スクリーンで」との後押しを受け、オムニバスの「GEMNIBUS」としてお披露目することになったというわけだ。

開発チームリーダー、馮年プロデューサーは、この試みを雑誌社の新人漫画家育成の取り組みと対比して、こう語る。「人気漫画家の担当編集者も、新人発掘に時間の半分を割くという。バッターボックスを用意して、チャンスをつかむ機会を与えている。映画は製作費も人手もかかるから、いっそう意識的に取り組まないと」。1作で終わらせず、〝その後〟も見据える。「一作ごとのリターンよりは才能に投資するつもり。ゆくゆくは一緒に、〝本線〟で公開できる娯楽大作を作ることが目標だ」

栢木琢也GEMSTONE Creative Label統括プロデューサーも「誰もが大ヒット作を作れるわけではない。だからこそ、多くの人と組んで作り続けていくことが重要だと思う。10年単位で何人か出てくれたらうれしい」と長期的視野を強調する。加えてGEMNIBUSはオリジナル作品にこだわるという。「ストーリーを作れることは監督にとってとても重要な能力だ。映画作りの基本は脚本で、〝ゼロから1を生み出す〟ことが最も難しい。だからこそ、オリジナルにこだわって作品を作りたいと考えているし、その才能を欲している」


GEMNIBUS vol.1「ファーストライン」©️2024 TOHO CO., LTD.

まずは実績 企業の論理をはね返せ

「上層部も応援している」というプロジェクトだが、実は東宝が若手育成を図るのは初めてではない。1990年半ば、ぴあフィルムフェスティバルと組んで、新人を後押しする「YESレーベル」を創設した。橋口亮輔監督「渚のシンドバッド」(95年)、矢口史靖監督「ひみつの花園」(97年)と秀作を生み、両監督とも一線で活躍しているが、レーベルはその後続かなかった。意気込みはあっても、利潤追求の企業論理に立ち向かえるのだろうか。
 
このあたり、馮プロデューサーも先刻承知だ。「2、3年すると赤字と指摘され、撤退となりかねない」と認めた上で、「一人でもヒット監督が出れば、それが証明になる。今回の4人の〝2本目〟が重要だし、vol.2、vol.3がどこまで羽ばたけるかが指標。毎年続けるのが大事だ」。すでにvol.2の企画も動き出しているという。
 

GEMNIBUS vol.1「フレイル」©️2024 TOHO CO., LTD.

連日舞台あいさつ

さて「GEMNIBUS vol.1」、簡単に4作を紹介すると――。
「ゴジラVSメガロ」の上西琢也監督は、映像製作会社「白組」に所属するCGディレクター。第1回クリエイターズ・オーディションで入賞。ゴジラのバトル場面を自作しYoutubeなどで公開してきた。「ゴジラVSメガロ」はYoutubeで公開した作品に磨きをかけた、怪獣バトルものである。

「knot」の平瀬遼太郎監督は22年のTikTok TOHO film Festivalの入賞者。CMなどを手がけている。「knot」は行方不明になった息子を捜すうちに、父親の過去が明らかになっていくホラー仕立ての物語。

「ファーストライン」はアニメ。ちな監督は東宝傘下のTOHO animation STUDIOに所属するアニメーターだ。ベテラン監督から大事なパートを任されたアニメーターの奮闘を、伸び伸びとした絵で表現した。

「フレイル」は、TikTok TOHO Film Festivalで入賞した本木真武太監督によるファンタジー。本木監督はスマートフォンの縦型画面を使った映画を多く手がけ、国内外で受賞実績を重ねている。高齢者が高校生に戻れるVRアプリ内で、ゾンビとの闘いをコミカルに描いた。

さすが東宝が見込んだだけあって(?)、4作とも堂々とした作り。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田で6月28日から7月11日まで公開。2週間は連日、舞台あいさつを行うという。未来の巨匠の誕生に立ち会えるかも。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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  • 「GEMNIBUS」製作発表記者会見で集合した、監督とプロデューサー。前列中央は公式アンバサダーの上白石萌歌
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