第36回東京国際映画祭の「ウーマン・イン・モーション」に登壇した(左から)是枝裕和、水川あさみ、ペ・ドゥナ、鷲尾賀代=写真はケリング提供

第36回東京国際映画祭の「ウーマン・イン・モーション」に登壇した(左から)是枝裕和、水川あさみ、ペ・ドゥナ、鷲尾賀代=写真はケリング提供

2023.10.30

「〝出る杭〟も集まれば打たれない」女性映画人にエール 水川あさみ、ペ・ドゥナ、鷲尾賀代

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鈴木隆

鈴木隆

東京国際映画祭の公式プログラム、TIFFスペシャルトークセッション、ケリング「ウーマン・イン・モーション」が10月27日、東京・TOHOシネマズ日比谷で行われ、俳優の水川あさみ、韓国の俳優ペ・ドゥナ、WOWOWの鷲尾賀代プロデューサーが登壇した。日韓米の製作現場の違いや女性を取り巻く環境、その課題などについて意見を交わした。


韓国ではあり得ない「撮影日数28日」

冒頭、是枝裕和監督がオープニングスピーチに立ち「映画の現場で活躍する女性たちにとって何が課題かをあぶりだしていくイベントが、映画祭の一環として開催されるのは大きな進歩。僕自身、昨年設立した『action4cinema』の活動で、女性が結婚や出産を経ても仕事を続けられる環境の整備を提言し、働きかけていこうと思っている。映画界で働きたいという方たちも仲間になってください」と呼びかけた。
 
3人は、日本映画界の現状について考えを述べた。日本映画出演経験もあるペは「リンダリンダリンダ」(2005年)に出演した際、「撮影日数が28日間という短さに驚いた。当時の韓国では考えられない。また、韓国ではスタッフ全員が撮影現場でモニターを見るのに、日本では監督ら一部の人しか見ないことにもびっくりした」と振り返った。韓国でも「15年くらい前は撮影の5分前に台本が来ることもあった。しかし、今では(18年に改正された勤労基準法によって)労働時間の上限が1週間で52時間になった」と改善の一端を話した。ただ「実質、俳優には適用されないこともある」と付け加えた。
 
WOWOWで国際共同製作などを手掛けている鷲尾は「米国ではユニオンのルールが厳しく1日12時間以上は基本撮影しない。撮影が夜中に終わったら、そこから12時間は必ず時間をあけるルールもある。働き方改革は進んでいる」と報告した。
 
一方、今年の釜山国際映画祭で初めて海外の映画祭を体験した水川は、「観客からの質問が深い。映画文化の水準や観客のリテラシーの高さにショックを受けた」という。ぺも「韓国ほど映画が大好きな国は珍しいし、映画館で映画を見ることが日常生活に溶け込んでいる。たくさん見るだけによく知っている。韓国のコンテンツ力が上がっているのは観客のレベルが上がっているからで、私たちにとっても相互作用が働いている」と韓国映画の強さの理由に言及した。


水川あさみ

ドラスチックに意識改革したアメリカ映画界

映画界における女性を取り巻く環境の変化についても話し合った。水川は撮影現場での体験をもとに「女性のスタッフが増えてきたと感じる。技術スタッフに目立つし、撮影監督などのチーフ的立場の女性を目にすることも増えた。ただ、年齢を重ねて結婚し子どもを産んだり、家庭を持ちながら仕事をしたりする上でのバランスがとれていないと感じることは正直多い」と発言。
 
アメリカで10年以上プロデューサーをしてきた鷲尾は「アメリカでは、スタジオのヘッドや大企業の経営陣などに女性が占める割合は、肌感覚では3割か4割ぐらい。なお5割を目指している。日本ではまだ、女性が何を言っているんだという空気が流れる。日本では女性が働きにくい土壌は確実にある」。
 
大きな問題だがどう解決したらいいのか。鷲尾は「変わるべきところを一斉に底上げしないといけない。例えば先日見た『リトルマーメイド』では、七つの大海の多種多様な人種やLGBTQなど性的少数者が交ざって描かれていた。初めて『リトルマーメイド』を見る子供たちは、そういう形を常識として育っていく。映像を作る側も責任がある」と問題提起した。
 
またアメリカとの改革への意識の違いも指摘した。「アメリカでは『女性やマイノリティーはまだスタートラインにも立っていない。経験を積んできた白人男性と比べるのは不公平。だから今は、意図的に機会を与えるために女性やマイノリティーを雇い、その後に、平等に実力で比べられる時代がくる』という考え。このために、業界は短期間でドラスチックに変わった。韓国の映画界に学ぶこともたくさんある。日本は変わることが不得意で、最初はコピーからでもいいので行動に移すべきだ」


ペ・ドゥナ

変わらぬ若さ重視、男性優位

鷲尾は#MeToo以降のアメリカの変化も体感した。「『#MeToo』運動前までは40歳を過ぎると女優が主役の映画やドラマは少なくなると言われていた。女優のリース・ウィザースプーンは『ならば自分で』と製作会社を作り、40歳以上の女性が主人公のいい企画、脚本を求めた」。#MeToo以降「こうした世代が主人公の映画は増えた」と感じているという。
 
一方水川は、日本での女優の役柄について「若い子を主体とする物語がいまだに主軸になっている気がする」と指摘。#MeToo運動の波及が遅かったことに「何が起きたのか、というくらいに静かな中にいた。このトークショーも含め、ようやく問題提起として上がってくることが多くなった。日本人の性質としてすぐに変わることは難しい。製作現場での変化が見せかけだけで、実際変わっていないことは多々ある。根本的にいろんな水準を上げなくてはいけない」と訴えた。
 
韓国映画でも主人公が男性の作品が目立ち、ぺは「なぜ、男性が主人公の映画が多いのか」と疑問を持っていたという。「魅力的で生き生きとした女性像を描き、すてきな女性が多く登場する映画を作ればお客さんは来てくれる。女性映画人たちの活躍を心の底から祈っている」と将来への希望を語った。自身は女性監督チョン・ジュリによるインディペンデント映画「私の少女」に出演。「(出演を決めた)当時、彼女はまだ無名に近かったが、シナリオが素晴らしかった。新人監督であれ、超低予算映画であれ、俳優にとっては関係ない。才能ある女性監督や、デビューを待つ女性監督たちを私も応援したい」と振り返った。


鷲尾賀代

確固たる気持ち、持ち続けて

最後に、これから映画業界を目指す女性へのアドバイス。鷲尾は「若い方はアメリカのフィルムスクールに行くのが一番早い。日本には『出る杭(くい)は打たれる』という文化がある。まずは、打たれてもめげないメンタリティーを持つことが大事。さらに、努力とあわせて運も重要。チャンスはほんの数回しかやってこない。それをつかみ取る準備を常日頃からしておくこと」。
 
ぺが付け加えた。「出る杭が集まっていれば、どこに当てたらいいか分からなくなるかもしれない。当たって砕けろとぶつかってみること。勇気と希望を伝えたい」とぬくもりと激励に満ちたメッセージを送った。水川は7年前に独立した経験を踏まえ「純粋な気持ちで映画にかかわりたいと思ってやってきた。自分の確固たる気持ち、マインドを持ち続けてほしい」とエールを送った。

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ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

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