いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。
2025.1.20
期待を裏切らない面白さ! クレーアニメの最高峰シリーズ最新作「ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!」
「ウォレスとグルミット」とはイギリスのアードマン・スタジオ製作の、クレーアニメーションのシリーズだ。監督のニック・パークがNational Film and Television School (NFTS)の卒業製作として原形を作り、6年をかけて短編の「ウォレスとグルミット チーズ・ホリデー」(1989年)が第一作として誕生した。以降、このシリーズは数え切れないほどの賞を受賞し、世界中で人気を集めている。
イギリスを代表するクレーアニメーション、19年ぶり2本目の長編映画
Netflixで1月3日より独占配信されている「ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!」は、米アカデミー賞で長編アニメ映画賞を受賞した、シリーズ初の長編映画「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」(2005年)以来となる長編作品だ。シリーズにおいて初めての、配信オンリーの作品となる。
シリーズの主人公は50代のイギリス人男性ウォレスと、一緒に暮らす相棒のグルミット(犬)。自称発明家のウォレスは、生活を便利にする珍ガジェットをこれまでにいくつも発明し、それらが物語上で起きる騒動を大きくしたり解決したりする脚本がすばらしくよくできている。また、グルミットは人間の言葉はもちろん、犬の鳴き声も発さない。表情と動きだけで思考や感情を表現するキャラクターだからこそ、世界中の老若男女を魅了することができたのだろう。
© 2024 Netflix, Inc.
あの泥棒ペンギンが極悪さを増して帰ってきた!
ウォレスの今回の発明は、高性能お手伝いロボット「ノーボット」こと「スマート・ノーム(賢い小人)」だ。口頭で命令するだけで、ガーデニングもお掃除もなんでもこなす。ところが何者かにシステムをハッキングされたノーボットが、「エビル・ノーム(悪い小人)」となって暴走し……。
ノーボットを支配下に置いたのはなんと、シリーズ第2作「ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!」(93年)に登場した泥棒ペンギン、フェザー・マッグロウ! 同作でウォレスの家の下宿人となったペンギンは、ウォレスが発明したガジェットを悪用して博物館に所蔵されているブルーダイヤモンドを盗み出すことに成功した。ところがウォレスとグルミットの活躍で警察に突き出され、動物園に収容されてしまったのだ。
本作は、動物園にいるフェザー・マッグロウが大量に増やしたノーボットたちを遠隔操作して、ウォレスとグルミットに復讐(ふくしゅう)を仕掛けるというシナリオだ。29分の前作に比べると、82分の本作では全編を通して魅力的な悪役であるフェザー・マッグロウを存分に堪能できる。
つぶらを通り越して虚無な黒目、ポーカーフェースだがピンチになるとタラリと滴る大粒の汗、アザラシの赤ちゃんを膝の上でなでている謎の極上ショットなど、フェザー・マッグロウのファンにはたまらないシーンの連続だ。そして、彼の手足となり忠実に命令を実行するエビル・ノームたちが絶妙に恐ろしい。ボスと同じ真っ黒い瞳の彼らを見ていると、この世でもっとも強い存在は、意思と恐怖心を持たない軍隊だと痛感する。
シリーズのお約束を更新していく
趣向をこらしたチェイスシーンがこのシリーズのお約束。前作のチェイスシーンはウォレスの家で、おもちゃの汽車の上だった(名シーン!)。それが本作では、あんな乗り物やこんな乗り物、そしてラストには本物の汽車があんなふうに使われて! コマ撮りのストップモーション・アニメーションであることをつい忘れてしまいそうになるリッチな仕上がりだ。
爆破シーンなどに使われているCG(コンピューターグラフィックス)には賛否がありそうだが、大迫力のクライマックスになっていることは間違いない。また、主観ショットでは猛スピードで走っているつもりが、客観ショットに切り替わると時速6キロのノロノロチェイスだった……というユーモアも嫌いじゃない。
そしてこれまたシリーズのお約束、ウォレスとグルミットの絆も描く。ウォレスは序盤でノーボットに夢中になってしまい、グルミットへの接し方が雑になる。嫉妬したグルミットが見せるすねた表情と、イジケた行動がたまらない。
そして困難をともに乗り越えて、グルミットがいかに自分にとって大切な存在であるかをウォレスが確認してフィナーレ。前作でもペンギンにあっさり籠絡(ろうらく)されていたウォレスは、いったい何回このパターンを繰り返すのか? もしかして2人のプレーを見せられている……? もちろんこちらは何度でも大歓迎。短編でいいので、フェザー・マッグロウの再々登板にも期待!
Netflix映画「ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!」は独占配信中。