原版の状態を確認する技術者

原版の状態を確認する技術者

2022.5.20

よみがえる健さん フイルム修復の技術

2021年生誕90周年を迎えた高倉健。
昭和・平成にわたり205本の映画に出演しました。
毎日新聞社では3回忌の2016年から約2年全国10か所で追悼特別展「高倉健」を開催しました。
その縁からひとシネマでは高倉健を次世代に語り継ぐ企画を随時掲載します。
Ken Takakura for the future generations.
神格化された高倉健より、健さんと慕われたあの姿を次世代に伝えられればと想っています。

鈴木隆

鈴木隆

2016年10月19日朝刊掲載、「追悼特別展『高倉健』:よみがえる健さん フィルム修復、全205本上映可能に」を再掲載します。
*役職などは当時のものを表記しています。

なお22年現在では、14年に始まった4K試験放送と16年に始まった8K試験放送以降、一般家庭への4Kテレビの普及は加速して行きました。テレビ放送ではN H Kを始め、民放B S局で多くの4K番組が放送され始めています。
さらにこれに合わせるように配信分野では、4K配信が主流になり始めました。
パッケージメディア分野でも、4K対応のブルーレイとして「4K ULTRA HD Blu-ray」が普及し始めました。
デジタル復元コンテンツにも、今までと違う技術が要求されるようになってきました。
(1)高解像度表現(2K主流から4K主流への移行)
(2)高濃度域表現(H D Rと呼ばれる技術で表現する濃度域が大幅に向上)
(3)広色域表現(B T .2020と呼ばれる技術で表現する色域が大幅に向上)
現在では上記の技術を採用したデジタル復元が行われており、16年当時とは技術的には大きく進化してきています。こうした新しい技術と従来から行われていた技術の両方でコンテンツ制作が行われています。(東映ラボ・テック「フィルム原版の修復とデジタル復元 前回取材からの変化について」より)

日本映画が直面している「危機」

不世出の俳優高倉健が亡くなって2年。映画俳優としての仕事、業績を回顧する追悼特別展「高倉健」が11月19日、東京ステーションギャラリーを皮切りにスタートする。全出演作205本から出演場面の映像を上映するのが目玉の一つだが、準備の過程で壁にぶつかった。フィルムの経年劣化で修復が必要な作品があることが判明したのだ。フィルムの修復の過程を紹介するとともに、古い日本映画が直面している「危機」と適正なフィルム保存について報告する。

視聴が難しい「D」にランク

「ビネガーシンドローム」。縮み、ゆがみ、反りなどフィルム劣化に特有の現象だ。酢酸(ビネガー)臭を伴うことからこう呼ばれ、日本を代表する大スター、高倉健出演の映画も例外ではなかった。追悼特別展のために全作品を調べたところ、経年劣化していたフィルムが見つかり、修復が必要になった。
例えば「霧の街」(1957年)。修復を依頼した東映ラボ・テック(東京都調布市)のフィルム原版検査報告書には次のように記され、視聴が難しい「D」にランクされた。
「全体的にムラ、退色がある」「膜面はがれ」「縮みが大きい」
音声は修復ができなかったが、映像は高倉健の出演場面が見えるまでになった。
「第八空挺部隊 壮烈鬼隊長」(63年)もネガの収縮が激しく同じくDランク。フィルムを走行させるための左右の穴も破れたり裂けたりしていたが、何とか一部を修復することができた。経年劣化や上映によって生じる傷などへの対応を含め、計19本をデジタル化した結果、「季節風の彼方に」(58年)、「黒い指の男」(59年)など4作品はCS放送の東映チャンネルで視聴できるようになった。

保存へ戦略不可欠

古い映画には、汚れや傷、白い線が映ったり(雨が降る)、ノイズがあったりする作品も少なくない。それでも、上映できないほど劣化した作品をイメージするのは映画ファンでも難しいのではないか。だが、映画フィルムの一部にはそうした現実もある。
日本では90年代にビネガーシンドロームの原因や仕組みが確認され始めた。公開終了後の大半のフィルムは常温の倉庫に置かれ、30~40年でこの変化にさらされる。追い打ちをかけるのが、高温多湿の気候だ。
東京国立近代美術館フィルムセンターの栩木(とちぎ)章主任研究員は「劣化の進行を抑えるには、低温低湿な環境で保管することが重要」と語る。栩木さんによると、大手映画会社が近年、相模原市にあるフィルムセンターの専用保存庫にフィルムの原版を預けたり、自社撮影所内に専用倉庫を設けたりするなど「適正保管の重要性の認識が浸透しつつある」という。
もっとも、膨大な保存フィルム全てを修復・デジタル化することは費用面からも難しい。栩木さんは「どの作品をどのレベルまで修復するかの目標と計画を設定するなど、(映画資産を後世に伝えるための)戦略性が不可欠だ」と指摘する。

再上映に新たな道

現在、日本の映画館の多くはデジタル作品を上映している。DVDやテレビ放映でもデジタル化が不可欠だ。
こうした対応がされつつある作品として浮かぶのは、小津安二郎、黒澤明両監督ら巨匠が手掛けた作品群、映画史上の名作・傑作の数々だ。さらに、高倉健という、圧倒的支持を得た俳優の古い映画がデジタル化されるようになれば、幅広い作品の修復、再上映に新たな道が開けるだろう。それが、映画を愛した高倉健の思いをよみがえらせることにつながるのではないか。
今回の追悼特別展では、そうした願いを込めフィルムの修復過程を紹介するコーナーも設ける。
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追悼特別展のための修復とデジタル化を手掛けた東映ラボ・テックを訪ね、フィルムの原版から上映用デジタル映像ができるまでの過程を見学した。担当者の熟練の技、深い知識、そして映画への愛が感じられた。

熟練の技、知識 そして愛

◇ステップ1 原版の状態チェック
修復は、まずフィルムの状態をチェックすることから始まる。目視で傷みや縮み、カビの状態などを確認し、フィルムのエッジを素手で触りながら切れ目やくぼみを把握していく。この段階で「再生不能」と判断されることもある。フィルムのつなぎ目などで接着剤がはがれていることもあり、補強が必要な箇所にテープで印をつける。唾が飛ぶため会話は厳禁。

◇ステップ2 スキャニング
フィルムからデータを写し取る作業。写真はスキャンするフィルムをセットした場面。劣化の状態によって3台のスキャナーを使い分け、フィルムを全てコピーしてデータを収集。フィルムの状態によって、速度を調整して傷まないようスキャンする。温度と湿度は一定に保たれている。劇場上映用の高倉健主演映画「新幹線大爆破」(1975年)のスキャニングには約150時間かかった。


◇ステップ3 カラーコレクション
スキャンしたデータを上映用の色調に補正する作業。上映時のフィルムが残っている作品は、見ながらワンカットずつ調整。フィルムがないものはカメラマンや撮影助手などが立ち会うことも。それもできない場合は創作になる。専門のカラリストが担当するが、「自分の個性を出さない」が基本。映画の感覚で色を判断するため、作業ルームは暗くして作業する。


◇ステップ4 画像修復
汚れや傷を修繕し、がたつきや反りを安定させる工程。失われた部分の絵をCG(コンピューターグラフィックス)で作ることもある。DVDやテレビ放映用では目につかない汚れや傷が、映画館のスクリーンサイズ用の作業で見つかることも多い。用途と作業の細かさによって所要時間もさまざま。これが終わると、試写室で最終チェックを行い、作業が完了する。

22年東映ラボ・テック「フィルム原版の修復とデジタル復元前回取材からの変化について」より
ステップ1:原版の状態チェック
作業内容の大きな変化はありません。
劣化したフィルムを扱える技術者の高齢化が進んでいます。
この技術の継承は困難な面が多く、ビジネスとしての存続が大変難しい環境にあります。
その一方で劣化が始まったフィルムは、その劣化スピードを遅くする対処しか出来ないのが現状です。
こうした現状を考えると、一刻も早いデジタル復元が求められていると思います。
 
ステップ2:スキャニング
ここでの技術は視聴環境の変化などもあり、着実に進化しています。
フィルムから取得するデジタルデータには、以下の様な変化があります。
高解像度化が進んでいる:2K主流から4K主流に変化6Kや8Kの需要も出始めている
高濃度域化が進んでいる:より高いダイナミックレンジが要求されている
 
ステップ3:カラーコレクション
ここでの技術も視聴環境の変化などに伴い、着実に進化しています。
家庭用T Vモニターの4K対応が主流になってきていることが大きいと思われます。
T V放送分野でも4K放送が増えてきています。
また配信分野では、4K配信が主流になりつつあります。
こうした高解像度化だけではなく、より高濃度域や広色域表現を追求したH D Rといった技術も使用し始めています。
以上のような視聴環境の変化に対応すべく、カラーコレクションは進化してきています。
ハードウエア面ではより大容量なデータを高速に扱える機器に進化してきています。
ソフトウエア面では高解像度を扱え、HDRなどに対応したシステムに進化してきています。
 
ステップ4:画像修復
ここでの技術も視聴環境の変化などに伴い、着実に進化しています。
今までの技術では認識出来なかった汚れや傷が、4KやH D R環境では認識出来てしまう現象も出始めています。
こうした現象を改善すべく、以下のような取り組みが進んでいます。
ハードウエア面ではより大容量なデータを高速に扱える機器に進化してきています。
ソフトウエア面では、優れた機能を持つソフトウエアを組合せた独自のワークフローを構築してきています。

ライター
鈴木隆

鈴木隆

すずき・たかし 元毎日新聞記者。1957年神奈川県生まれ。書店勤務、雑誌記者、経済紙記者を経て毎日新聞入社。千葉支局、中部本社経済部などの後、学芸部で映画を担当。著書に俳優、原田美枝子さんの聞き書き「俳優 原田美枝子ー映画に生きて生かされて」。

カメラマン
ひとしねま

内藤絵美

ないとう・えみ 毎日新聞写真部カメラマン

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