「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」の一場面

「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」の一場面

2023.2.06

アカデミー賞脚色賞にノミネートされたダニエル・クレイグ主演作「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

ひとしねま

須永貴子

第95回アカデミー賞のノミネーションが2023年1月24日(現地時間)に発表された。最多ノミネートはA24製作の「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(作品賞を含む10部門11ノミネート)。
 
ここ数年の傾向として、劇場公開作品だけでなく配信作品も各賞でノミネートされている中で、脚色賞にノミネートされたNetflixオリジナル作品「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」(以下、「グラス・オニオン」)に注目したい。
 


ライアン・ジョンソン監督が前作に続いてアカデミー賞の脚本部門でノミネート

 アカデミー賞において、オリジナルの脚本に与えられるものが脚本賞で、小説など原作から起こされたものや続編作品に与えられるものが脚色賞。「グラス・オニオン」は、「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」(以下、「名探偵と刃の館の秘密」)の続編にあたる作品なので、脚色賞にノミネートされたというわけだ。
 
シリーズの脚本を手掛けているのは、監督も務めているライアン・ジョンソンだ。第1作では、“キャラ立ちした名探偵ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)が謎を解明する殺人ミステリー”という枠組みをしっかりと構築した上で、観客に中盤で明かした“秘密”を、ラストの謎解きシーンで驚きの“真実”が飛び越えてくるという展開で観客を楽しませた。さらには人間への深い洞察力に基づいた普遍的なメッセージも忍ばせる見事な脚本で、第92回アカデミー賞で脚本賞にノミネートされている。
 

島という密室状態で事件が起こり、登場人物たちは疑心暗鬼に

 パンデミックの中で撮影された続編の「グラス・オニオン」は、その状況を作品の設定にそのまま生かした脚本になっている。ロックアウトの生活を強いられているブランは、巨大ハイテク企業アルファ社の創業者で億万長者のマイルズ・ブロン(エドワード・ノートン)のギリシャの豪邸に招待される。船着き場でマイルズの部下から謎の薬を喉に噴射されると、島ではマスクが不要に。
 
他に招待された客は7人。みな年に1度マイルズに招待されている友人だったが、そこにはアルファ社の共同創業者でマイルズに切り捨てられたアンディ(ジャネール・モネイ)という、招かれざる客もいた。そしてマイルズ主催の殺人ミステリーゲームが開催されると、本当の殺人事件が発生してしまう。
 
島という密室状態で起きた殺人事件ということは、この中に殺人犯がいるということ。登場人物はお互いに疑心暗鬼になり、パニックになる中で、ブランだけが水を得た魚のように推理を進めていく。「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」の脚本・監督で知られるライアン・ジョンソンが、このシリーズにおけるアガサ・クリスティの影響を語っているように、前半の大局はある種の古典的な密室殺人ミステリーだ。
 
しかし今回も中盤で、観客はここまで隠されていたある秘密を知ることになる。そこを機にガラリと様相を変えて、観客はブランとその秘密を共有した状態で、マーダー・ミステリー・ツアーの参加者になるのだ。
 

John Wilson/NETFLIX

一作ごとに細かくなるキャラクターのディテールは、作品を追いかける楽しみに

ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドの次に取り組んでいるブノワ・ブランは、当たりは柔らかいが粘り強く、後ろめたい何かを抱えている人にとってはうっとうしい探偵だ。劇中で「南部なまり」と言及される癖のあるしゃべり方が、作品にとってユーモラスな色付けになっている。
 
また、彼のTPOに配慮したファッションも見どころのつ。人物のバックグラウンドについてはほとんど明かされていないが、「グラス・オニオン」では彼がフィリップという男性(ヒュー・グラント)と同居していることが明らかに。一作ごとにキャラクターのディテールが細かくなっていくのは、オリジナル作品シリーズをリアルタイムで追いかける楽しみのつだ。
 
いくつもの真実が明かされてたどりついたラストショットは、「名探偵と刃の館の秘密」と同じく、ある女性キャラクターのクローズアップだ。2人に共通するのは、ブランの協力のもと真実を手に入れたが、大切な人はもう戻ってこないこと。強く美しい彼女たちのしみをたたえた表情が残す余韻が、作品の品格を高めている。
 
ちなみに、「ブロンド」の演技で今回のアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたアナ・デ・アルマスにとって「名探偵と刃の館の秘密」はブレクのきっかけになった作品。彼女はミステリーの中心人物となる看護師マルタ・カブレラ役を好演し、その年のゴールデングローブ賞(コメディー/ミュージカル映画部門)の主演女優賞にノミネートされた。
 
「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」はNetflixにて独占配信中

ライター
ひとしねま

須永貴子

すなが・たかこ ライター。映画やドラマ、TVバラエティーをメインの領域に、インタビューや作品レビューを執筆。仕事以外で好きなものは、食、酒、旅、犬。

この記事の写真を見る

  • 「ナイブズ・アウト:グラス・オニオン」の一場面
さらに写真を見る(合計1枚)