不都合な夫婦の真実  ©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019 Dean Rogers

不都合な夫婦の真実 ©Nest Film Productions Limited/Spectrum Movie Canada Inc. 2019 Dean Rogers

2022.5.06

不都合な理想の夫婦

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ニューヨーク在住の裕福な英国人貿易商ローリー(ジュード・ロウ)が、さらなる成功を求めてロンドンに移り住む。しかし野心が先走ったローリーのビジネスは破綻し、米国人の妻アリソン(キャリー・クーン)や多感な子供たちとの軋轢(あつれき)も表面化していく。

ブラックマンデー前年の1986年を背景に、資本主義社会の申し子たる主人公の尽きせぬ欲望とその末路を描いた。英米の価値観の差異などにも目を向けた重層的なドラマだが、最も異彩を放つのは一家が暮らす古めかしい豪邸だ。幽霊屋敷ホラーの舞台になりそうな邸宅の複雑な構造、廊下や階段にこびりついた不穏なムードがただならぬ緊迫感を醸し出す。そのほかにも虚飾にまみれた現実が揺らぎ、崩れゆく予兆に満ちたショットが随所にちりばめられ、濃密な映画体験に浸れる。「マーサ、あるいはマーシー・メイ」(2011年)でデビューしたショーン・ダーキン監督、久々の長編第2作。1時間47分。東京・kino cinema立川高島屋S.C.館、大阪・シネ・リーブル梅田ほかで公開中。(諭)

ここに注目

心機一転を図って移住した土地で思うようにならず、神経をとがらせていく家族のさまが、舞台劇のような濃密さで描かれる。ジュード・ロウはじめ演技巧者を見る価値はあり。ただオカルト的な仕掛けや刺激的な描写をせずにリアリズムに徹しているぶん、物語は地味。(勝)

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