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2022.12.11
「SHERLOCK/シャーロック」の脚本家&演出家による犯罪サスペンス「インサイドマン -囚われた者-」:オンラインの森
イギリスのBBC で2022年9月26日から放送された、全4話(1話約60分)のTVシリーズ「インサイドマン -囚われた者-」が、10月31日からNetflixで配信中だ。脚本は「SHERLOCK/シャーロック」や「ドクター・フー」のスティーブン・モファットが手掛け、監督は同じく「SHERLOCK/シャーロック」で4エピソードを演出し、「リヴァプール、最後の恋」や「ギャングスター・ナンバー1」などの長編映画で知られるポール・マクギガンだ。
2010年から17年まで、4シーズンにわたって同じくBBCで放送された「SHERLOCK/シャーロック」の脚本&演出家コンビの犯罪サスペンスということで、ネタバレを回避しつつ、シャーロック・ファンが楽しめそうなポイントをピックアップしてみたい。
刑務所で身動きが取れない死刑囚グリーフの名探偵ぶり
本作はアメリカの刑務所と、イギリスの田園地帯にある牧師館が舞台になっている。それぞれに軸となる人物は、妻を殺害した死刑囚のグリーフ(スタンリー・トゥッチ)と、妻メアリーと高校生の息子ベンと暮らす牧師のハリー(デビッド・テナント)。罪人と神を信じる者を、大西洋を隔てて対に配置した構図になっている。
犯罪心理学の教授だったグリーフのもとには、刑務所の所長を介していろいろな事件を抱えた人たちが相談にやってくる。グリーフは自身が「道徳的な価値(moral worth)」があるとみなす事件だけを次々と解決していく。シャーロックに比べるとキャラクターとしてはだいぶ地味だが、彼の名探偵ぶりが一つの見どころであることは間違いない。
そこに飛び込んでくるのが、彼の取材を試みるイギリス人の犯罪ジャーナリスト、ベス・ダベンポート(リディア・ウェスト)だ。基本的に人を寄せ付けないグリーフはなぜか彼女を気に入り、動きの取れない自分の代わりに彼女を遠隔操作して事件を解決していく。事件の全容を伝えられないまま点から点へと走らされて翻弄(ほんろう)される彼女のポジションは、シャーロックの助手のジョン・ワトソンといえるかもしれない。
一方の牧師館では不幸な勘違いの連続から、ベンの家庭教師のジャニス・ファイフ(ドリー・ウェルズ)を、牧師のハリーが地下室に閉じ込める事態が発生する。そこからは地下室で展開する、ジャニスとハリー、ジャニスとメアリーの駆け引きと心理戦が見どころだ。
「SHERLOCK/シャーロック」ファンにはうれしい、リトル・シャーロックの出演
本作ではそれ以外にも、グリーフとベス、グリーフと所長、グリーフと彼が殺害した妻の父親など、さまざまな関係性において切り札をちらつかせ、見返りを求める駆け引きが繰り広げられる。最後までグリーフが妻を殺した理由や“あれ”の隠し場所が明らかにならなかったのは、モファット&マクギガンがシーズン2を作るために温存した「切り札」と推測する。
ベスは友人ジャニスの異変に気付き、グリーフの協力をとりつける。視聴者は牧師館で起きている事態を神の視点で見ているので、登場人物の愚かさや傲慢さが手に取るように伝わってきて、優越感すら味わえるだろう。
ところがグリーフは、視聴者のその優越感をも織り込んだ上で、ラストにまさかの刺客をイギリスの片田舎に送り込む。そのときに視聴者は、自分もベスと同様にグリーフの手の上で転がされていたことに、そして彼の「誰もが殺人者になる。もっともな理由と嫌な一日があればね」というせりふに自分も含まれていることに気付くのだ。地味とか言ってごめんね、グリーフ。
「SHERLOCK/シャーロック」ファンにとってもうひとつのうれしいポイントが、牧師の息子のベンを演じているルイス・オリバーだ。「SHERLOCK/シャーロック」シーズン3の「最後の誓い」(14年)で、リトル・シャーロックことシャーロックの少年期を演じていた彼。眉と切れ長の目の個性的なバランスが醸し出す、(シャーロック役の)ベネディクト・カンバーバッチの気配は健在だ。Netflixで配信中の「真夜中のミサ」エピソード7にも出演しているので、こちらもチェックしたい。
「インサイドマン -囚われた者-」
Netflixにて独占配信中