「シュミガドーン シーズン2」より 画像提供 Apple TV+

「シュミガドーン シーズン2」より 画像提供 Apple TV+

2023.6.19

ミュージカル好き、苦手な方にもおすすめする「シュミガドーン シーズン2」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

村山章

村山章

ミュージカルが大好きなひとにも、ミュージカルが苦手というひとにもおすすめしたいのが、AppleTV+のドラマシリーズ「シュミガドーン」だ。
 
2年前に配信されたシーズン1では、ミュージカルファンとミュージカル嫌いの倦怠(けんたい)期カップル、メリッサとジョシュが、森の中で古めかしいがパステルカラーの町〝シュミガドーン〟に迷い込む。そこは住民たちが突然歌って踊り出す〝ミュージカルの世界〟だった‥‥‥というお話。
 
1話30分ほどで6エピソード。毎回毎回、黄金期とされる1940~50年代のミュージカル映画をパロディーにしたオリジナルのミュージカルシーンが用意され、にぎやかなお祭り騒ぎが繰り広げられる。
 

画像提供 Apple TV+ 

ミュージカルあるあるネタをちりばめたブラックコメディー

 主演はコメディアンのセシリー・ストロングとオールスターキャストのミュージカル映画「ザ・プロム」にも出ていたキーガン=マイケル・キー。
 
さらに「チョコレートドーナツ」のアラン・カミング、「アリー my Love」や「ディキンスン ~若き女性詩人の憂鬱~」のジェーン・クラコウスキー、「ウエスト・サイド・ストーリー」でオスカーを受賞したアリアナ・デボーズ、ディズニーチャンネルの「ディセンダント」の主演でも知られるダブ・キャメロンら巧者がそろっていて、彼らのパフォーマンスだけでも目と耳のごちそうといえる。
 
メリッサとジョシュは「真実の愛」を見つけるまでは現実の世界に帰れないらしい。果たしてシュミガドーンは毎日がハッピーな天国なのか、すべてが作りものの牢獄(ろうごく)に閉じ込められた地獄なのか? 「シュミガドーン」はミュージカルあるあるネタを全編にちりばめることで、ミュージカルというジャンルの魅力と同じくらい、現実逃避的で空虚な側面もあぶり出す。苦い皮肉ととびきりの楽しさを両立させたブラックコメディーなのである。
 

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シーズン1から正反対に振り切った世界観で繰り広げられるストーリー

 メインキャストがシーズン2でも続投と聞いて、再びあの愉快な町を再訪できるのかと楽しみにしていた。劇中のメリッサとジョシュも同じ気持ちだったようで、ままならない現実に失望した2人は、ハッピーでお気楽なシュミガドーンに帰ろうとするのだが、たどり着いたのは悪徳と犯罪の大都会、シカゴならぬ「シュミカゴ」だった、という展開になる。
 
当然「シュミカゴ」の街は、アカデミー作品賞にも輝いた2002年の映画「シカゴ」をベースにしている。「シカゴ」のオリジナルは75年に初演されたブロードウェーミュージカルで、ショービジネスに憧れる殺人犯の女囚を主人公に、どんな犯罪もゴシップやエンタメとして消費してしまう世相を皮肉ったもので、とにかく善良な人間がほとんど出てこない。誰もが名声のために他人を押しのけ踏みつけにする、善良さと幸福感に満ちた黄金期のミュージカルとは真逆の世界なのだ。
 
つまりシーズン2は、夢見るような世界観だったシーズン1からベクトルを真逆に振り切って、猥雑(わいざつ)でいかがわしく、ギラギラとした欲にまみれた悪夢の世界に誘ってくれる。ネタにするミュージカルも、「シカゴ」を筆頭に、より退廃的な「キャバレー」、殺人肉屋を主人公にした「スウィーニー・トッド」、ヒッピーカルチャーを描いた「ヘアー」、ドラッギーなロックミュージカル「ロッキー・ホラー・ショー」まで幅広く、60~70年代を中心にどぎつい個性を持ったものが選ばれている。
 

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シーズン1とは別のキャラクターを演じた役者たちの演技の振り幅も楽しめる

 面白いのはシーズン1でシュミガドーンの住人たちを演じていた面々が、まったくタイプの違うキャラクターを演じていること。劇中でも「同じキャストが演じる別のミュージカル世界」だと説明されていて、二つのシーズンを見ることで役者の振り幅の大きさを目の当たりにできるのである。
 
しかし、元ネタにするミュージカル自体がダークでブラックになったら、この作品が持っていた皮肉な視点やブラックユーモアの面白さはどうなってしまうのか?と、余計な心配をしてしまったが、そんなことは製作陣はとっくにわかっていたのだろう。
 
暗い世界観だからこそポジティブさを追い求める物語になっていて、ミュージカルらしいご都合主義や壮大な絵空事であることはそのままに、よりダイレクトに気持ちを揺さぶる美しい大団円が待ち受けていた。
 
次なる趣向でまたあのキャストたちに会いたいので、心からシーズン3も製作してほしいと願っているのだが、あまりにもアッパレな幕引きだったので、続編なんて蛇足ではないかとも思ってしまう。まあそんな心配も製作陣はとっくに承知の上で、さらに驚くような構想を練ってくれている気もしますが。
 
 「シュミガドーン」シーズン2はAppleTV+で配信中

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ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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