毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.9.09
特選掘り出し!:「人質 韓国トップスター誘拐事件」 本人役、演技力を駆使して
韓国の国民的俳優ファン・ジョンミンが誘拐され、身代金を要求される。彼をソウル郊外のアジトに監禁したのは、若者5人の犯罪グループ。絶体絶命の状況に陥ったジョンミンは、おのれの演技力を駆使して脱出を図るが……。
「国際市場で逢(あ)いましょう」「ベテラン」などでおなじみの人気俳優が、誘拐される自分自身を演じた犯罪劇。ネタ勝負のお笑い映画と思ったら大間違い。徹底したシリアス調でぐいぐい見せるサスペンスアクションである。
何しろジョンミンのいたぶられ方がすさまじい。交渉に一切応じない凶暴な若者たちは、容赦なく罵声と嘲笑を浴びせ、殴る蹴るのやりたい放題。トップスターのプライドを見るも無残に踏みにじられ、心身ぼろぼろとなるジョンミンのあまりにもふびんな姿に、女性ファンの悲鳴が上がりそう。
前半の密室ドラマから、森での逃走シーン、警察を巻き込んでの市街地カーチェイスへとスケールアップしていく映像世界は、先読みを許さないプロットのひねりも加わってダレ場なし。このジャンルにおける韓国映画の勢いを改めて感じさせる濃厚な出来ばえだ。ピル・カムソン監督。1時間34分。東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋ほか。(諭)