トゥルーノース (C)2020 sumimasen  

トゥルーノース (C)2020 sumimasen  

2021.6.03

特選掘り出し!:トゥルーノース 極限での人間性回復

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

北朝鮮政府は否定しているが、この閉ざされた独裁国家には今も12万人が拘束中の政治犯強制収容所があるという。在日コリアン4世である新人の清水ハン栄治監督が、多くの脱北者や収容所の元看守の証言に基づき、謎めく〝北の真実〟に迫った長編アニメだ。

1995年、平壌の集合住宅で暮らす日系家族の父親が、政治犯として逮捕された。幼い兄妹ヨハンとミヒは心優しい母親とともに収容所に連行され、劣悪な環境で重労働を強いられていく。

「実写で撮ったらホラー映画になる」と監督が語るように、監視と密告が日常化し、拷問や公開処刑も行われる収容所の現実は、まさしくこの世の地獄。そんな冷酷無比の人権蹂躙(じゅうりん)が繰り返される極限状況の中でも、人と人とが助け合い、愛や友情が芽生えることもある。とりわけ清水監督は、生きるために一度は暗黒面に堕(お)ちた主人公ヨハンが人間性を回復していくドラマに力を注ぎ、衝撃的な題材に豊かな情感を吹き込んだ。

ずしりと胸に響く家族の物語、アニメという表現の寓話(ぐうわ)性、そして作り手の並々ならぬ熱意が調和した一作である。1時間34分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(諭)