ストレイ 犬が見た世界  © 2020 THIS WAS ARGOS, LLC

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2022.3.17

ストレイ 犬が見た世界

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

犬の殺処分ゼロの国、トルコ。ゼイティンと名付けられた大型犬を中心に、イスタンブールで生きる野良犬たちの日々を描く。このドキュメンタリーのユニークな点は、全編にわたってほぼ犬の目の高さで撮影されていること。カフェでおしゃべりする人々の声が、ふいに聞こえてくることもある。ローアングルで撮影された映像だけではなくサウンドデザインにも工夫が施され、聴覚的にも没入感がある。町には野良犬をかわいがるシリア難民の少年の姿も。自由な犬たちは町のいたるところをすみかにできても、シンナーを片手にした少年たちは寝床として整えた建設現場をすぐに追い出されてしまう。犬がくれるぬくもりや愛情とともに、そんな皮肉な現実も浮かび上がる。野良犬たちはあくまで気ままに生きているだけだろうが、何度か挿入される哲学者の言葉がよく似合い、現代社会のゆがみを伝える伝道師のごとき役割を担っているようにも見えた。エリザベス・ロー監督。1時間12分。東京・ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪・なんばパークスシネマほか。(細)

ここに注目

野犬には野犬の、人には人のコミュニティーがあり、両者がつかず離れずの距離を保っている様子がすごく自然に思えた。野犬の行動や表情を見るとつい意味を与えたくなってしまうが、彼らはただそこで生きているだけ。フラットな目線で世の中を見ることの大切さを教わった。(倉)

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