ひとしねま

2022.4.08

チャートの裏側:受賞効果で一気に飛躍

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

珍しい現象である。米国のアカデミー賞を受賞した2作品が、飛躍的に動員数を上げた。興行面におけるアカデミー賞効果が、邦画と洋画に同時的に表れた。2009年の「おくりびと」と「スラムドッグ$ミリオネア」以来だ。今回、どちらもエンタメ作品ではないのが興味深い。

国際長編映画賞の「ドライブ・マイ・カー」は、4月3日時点で興行収入10億円を超えた。土日では前週比233%だ。とっつきにくいが、エンタメ系と客層が分かれるアート系作品とは違う。人の生きづらさを多角的な視点、側面から描く。希望がある。難しい作品ではない。

チャート外ながら、作品賞の「コーダ あいのうた」は、同日時点で5億円弱になった。土日では前週比617%だ。すごい伸び率だが、これは前週が興行終了時に近かったことによる。感動作にして、全く得難い映画体験ができる。個人的には、涙と鼻水がマスクの中であふれた。

この国の人々の映画の鑑賞パターンが、ここからうかがえる。海外映画賞の受賞、伝えるメディアの膨大な情報量によって流れが一気に変わる。前者の邦画のほうが変わり方は顕著だ。自国の作品が受賞したことの誇りもあろう。その感覚が、娯楽性も十分にある「おくりびと」ほどではないが、多くの人を映画館に向かわせている。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)