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2024.7.04
西島秀俊ハリウッド進出! 愛すべきヘンテコ京都が舞台のミステリー「サニー」:オンラインの森
「ムーンライト」や「ミッドサマー」「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」ほか、設立10年でブランドを確立した映画会社A24。そのA24がApple TV+と組み、京都を舞台に作り上げたミステリー「サニー」が7月10日より配信開始される(全10話。初回は第1・2話、以降は各週1話ずつ更新)。「ドライブ・マイ・カー」で世界的にブレークした西島秀俊が出演していることでも話題を集めている本作、どんな内容なのか? 第1・2話を中心に紹介していこう。
シリアスばかりではなく、コメディー要素も強い第1~2話
京都で暮らすスージー(ラシダ・ジョーンズ)の人生は、電子機器会社で働く夫のマサ(西島秀俊)と息子ゼンが飛行機事故にあったことで一変する。ふたりが消息不明のまま進展がなく、心ここにあらず状態のスージーのもとに、夫の同僚・田中(國村隼)が訪問。
マサが開発したという家庭用ロボットを贈られるが、彼女は困惑。夫はロボット部門ではなく冷蔵庫部門で働いていると聞かされていたからだ……。「元気にしたい」としつこいロボットにうんざりしながら、スージーは「夫は何者だったのか?」を調べていく。
第1~2話のあらすじはざっとこんな感じだが、決してシリアス一辺倒なつくりではない。むしろコメディー要素も強く(とはいえ違和感や不条理のテイストだが)、スージーの毒舌家&飲んだくれなキャラクターも相まって、軽めのトーンで物語を追いかけていける。配信作では1話が1時間超のものも少なくないが、「サニー」においては1話が30分程度とすっきりまとまっている点も魅力的だ。
さまざまな要素を提示。第3話以降、どう展開されるか注視したい
そして、愛すべきヘンテコな世界観。古都・京都の街並みにペッパーくんを彷彿(ほうふつ)させるロボットがいる絶妙な異物感を筆頭に、(特に我々日本人からすると)異世界に見えてくる点も興味深い。
なぜか主題歌は渥美マリの「好きよ愛して」で、パーティーシーンでは荒木一郎の「いとしのマックス」が流れるなど昭和歌謡でまとめられており「今の話じゃないのかよ!」とツッコミたくなる一方で、高齢者が集まって「ゴースト・オブ・ツシマ」的なコンピューターゲームを楽しむようなシーンもあり、〝時代感〟がぐちゃぐちゃだ。
第2話の冒頭ではマサが働いていた会社の勤務風景が描かれるが、社員がARゴーグルをつけてラジオ体操第1一を行う異様な朝礼シーンがあり(スーツや髪形も微妙に昔っぽい)、レトロフューチャーとはまた違った「近代的なガジェット」と「戯画的な昔の日本」が入り交じっている。
ロボット・サニーのデザインにしても、ボディーは前述したとおりペッパーくん的だが、表情は「絵文字」「顔文字」に寄せたものになっており、いわゆる「ぴえん」的な顔をするため、「昭和」「平成」「令和」な雰囲気を行き来し、見ている側の時代設定がバグらされていく。
スージーとマサが出会うのはラーメン屋で、発券システムで苦労する彼女をマサが助けるシーンは妙にリアルだし、全体的に「日本語おかしくない?」と感じるような誤字も見受けられないため、海外資本の作品にありがちな徹頭徹尾「こんな日本はありません」ということもない。劇中に「ロボットが酔う」シーンが登場するが、見ている我々もどんどんこの世界観に酩酊(めいてい)させられていくのだ。
だがこの「サニー」、ある種アーティーな作品かと思いながら見進めていくと、いつしか物語展開の面白さに引き込まれていく。夫はなぜうそをついていたのか? 生きているのか、死んでいるのかどっち? サニーは何かを知っているのではないか?
背後にちらつく「安全なロボットを誤作動させる闇の技術」、さらには陰謀のにおい、会社ぐるみの隠ぺいの可能性――といった要素が次々と提示され、スージーとサニーの関係性が変化していく異端のバディーものの側面も出てきたりと、サスペンス/ミステリー/スリラーとしての物語的な骨組みの強度がしっかりと担保されている。残り8話でどう転がっていくか――今後の展開を注視したい。
「サニー」はAppleTV+で独占配信中