パク・チャヌク監督=小出洋平撮影

パク・チャヌク監督=小出洋平撮影

2023.2.14

インタビュー パク・チャヌク-(バイオレンスと性描写)=メロドラマ? 「別れる決心」

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勝田友巳

勝田友巳

パク・チャヌク監督と言えば、「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノと並んで、韓国映画を世界に躍進させた立役者の1人。「JSA」「オールドボーイ」「親切なクムジャさん」など過激でスタイリッシュなバイオレンス描写の人かと思ったら、新作「別れる決心」はなんとメロドラマ。といっても、甘い恋愛ものを期待してはいけない。あくまでも「大人向け」である。
 


 

愛とロマンスを描いてきたのに

「意外でした」という記者の言葉に「ロマンチシズムの要素は、これまでの作品にたくさん入っていたはずです」。世界中で聞かれて、もう何度も同じことを答えていますがと、顔に書いてある。
 
「愛とロマンスを描いてきたつもりだったのに、多くの人は同意してくれなくて残念だと思っていました。今回、暴力とセックスを取りのぞいたら、ようやくロマンチックと認められて、うれしいです」。冗談とも本気ともつかぬコメントを真面目な顔で言う。
 
そう思うのはファンだけではなかったらしい。15年来、組んでいる脚本家のチョン・ソギョンに、「愛を描く映画にしたい、本格的ラブストーリーを作ろう」と持ちかけたら「どういうこと? 私たちはそういうものを描けないですよね」と返されたという。
 
「逆に、それこそどういうことだ、今までだって愛について描いてきたじゃないかと言い返しました」。もちろん、並のメロドラマに収まるはずがない。「セリフを聞いてうんざりするような表現はできないよねと話して、好きとも愛してるとも全く言わない愛の物語になりました」


「別れる決心」© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

ファム・ファタールとノワール

切り立った岩を素登りしていた男が、頂上から転落死した。事件か事故か、捜査する刑事ヘジュン(パク・ヘイル)は、男の妻ソレ(タン・ウェイ)の不審な態度に事件への関与を疑っている。一方で、彼女の謎めいた雰囲気にあらがいがたくひかれ、妻がありながらソレにのめり込んでいく。
 
殺人事件、刑事、ファム・ファタール。フィルムノワール調の道具立てはそろっているが、パク監督は「観客が見ながら推測するジャンルとは、違う方向に進んでいく」と語る。一度別れたヘジュンとソレは別の殺人事件で再会し、いよいよ愛を深めていく。韓国の人気俳優パク・ヘイル、中国出身スターのタン・ウェイとも、パク監督とは初仕事、初共演の2人が、謎めいた関係をいっそう複雑に見せる。
 
「人間は、ある状態の時には不思議なほど同じように考え、同じ行動をとるのに、別の状態になると全く予想外のことを言ったりしたりする。単純さと複雑さが共存していて、その時々で変わるものなんです。その単純さと複雑さを調合すれば、複雑になり、そこが面白い」。2人の存在感がピッタリなのだ。
 

奇抜な映像で観客との距離感を最適化

関係がもつれてゆく物語もさることながら、奇抜な映像表現にも目を奪われる。ソレを張り込んでいるヘジュンが、遠くから双眼鏡でソレの部屋をのぞいている。カットが変わると、ヘジュンはソレの部屋の隅に立って、ソレをじっと見つめている。瞬間移動ではなく、ヘジュンの心理的距離を映画的に表現したというわけ。随所に虚を突くようなアングルと編集が仕掛けられている。
 
「登場人物の想像が情景化するという技法は1960年代の作品にもあって、そんなに不思議なものではないです。撮影そのものは基本に忠実に、でもそれで陳腐になることはないんです。レンズの種類や画角のサイズ、編集のリズムで新しさが生まれると思う。映像的な挑戦をしました」
 
しかしそうした冒険は、時に感情移入していた観客を映画から引きはがしかねない。「たしかにこの映画では、入り込んでいた観客が距離を感じる瞬間があるかもしれない。でも、見ているのは日常を描いたテレビドラマではなくて、映画ですからね。架空のものをこしらえているんです」
 
「重要なのは距離感。カメラと被写体、人物の感情と観客の感情。音楽によっても伸縮しますね。距離を取ることによって、観客を入り込ませることもできるんです」。たとえば、と終幕近く、海岸に走って姿を消したソレを、ヘジュンが追いかける場面を挙げた。
 
「正面から画面に入ってきたソレが左に向かって走って行ったのに、後から来たヘジュンは右に向かう。観客は思わず『ヘジュン、そっちじゃない』と叫びたくなる。適度な距離感の度合いを見つけるのが難しいけれど、総合的に最適を目指しました」


 

観客の知性を信じて

魅力的な映像は、入念な絵コンテのおかげでもある。韓国映画の製作現場では、当然の準備の一つ。特に今回の撮影監督キム・ジヨンとは初めて組んだため、より入念に検討したそうだ。「撮影準備のさらに前の段階で、脚本を基に話し合い1行ごとに画作りをして、絵コンテを描きました。撮影が始まってからは、現場で話す必要がなかったぐらい」
 
「別れる決心」は「大人に向けた作品だ」という。描写が過激とか難解だという理由ではない。「スマホでメッセージ送りながらではなく、劇場で集中して見る観客を想定しています。そして、技術的挑戦を受け入れる器を持っている人に見てもらいたい。よく映画人同士で話すのですが、観客の知性を無視してはいけないと思います」。パク・チャヌク流メロドラマ、刺激的かつロマンチックなのである。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

小出洋平

毎日新聞映像報道センター写真グループ

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