シネマの週末

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2023.8.18

チャートの裏側:新たな視点の一方で…

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

物議を醸した。「バービー」だ。米国の配給元が、作品に絡めた心無い原爆画像投稿に好意的なコメントをしたのである。日本国内の反発は大きかった。映画の存在が一気に知れた。好ましい広がり方ではない。興行収入は、スタート3日間で1億9000万円。微妙な数字だ。

映画は女性の生き方から見える社会の在り方を、バービー人形を介して描く。笑いをまぶした男性社会との対比が、娯楽的要素の中で溶け込む。男性、女性含め、普段はあまり気に留めない価値観が覆る。監督独自の考え方、見方だが、ハッとさせられる場面も多い。

米国のみならず、映画に多様性が求められる時代だ。「バービー」は娯楽大作の枠組みで、その方向性に新たな視点を示した。一方で、そのような作品を送り出す側の配給元が、原爆となると思慮のない対応に終始する。製作関係者と配給元に直接的なつながりはないにしても、奇態な感覚は拭えない。

知名度アップは、プラス、マイナス両面で興行に大した影響がなかった。微妙なスタートの意味だ。女性中心に、バービー人形への関心の有無が興行には大きかったとみる。ただ、関心派のスケール感は米国に及ばない。映画に込められた新たな視点を、娯楽的側面の中で日本人はどう受け取るか。口コミが広がりづらい感じもしている。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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