ひとしねま

2023.6.02

チャートの裏側:アクションここまでやるか

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ここまでやるのか。2週目2位の「ワイルド・スピード ファイヤーブースト」のことだ。5月28日時点で興行収入20億3000万円。シリーズ新記録に向けて絶好調である。ここまでやるのか、には現代ならではの意味合いがある。一つが、カーアクション描写のすさまじさだ。

カーアクションは、米映画が得意とする。手を替え品を替え、築き上げてきた。ネタは出尽くした感もあるが、今回は目を見張る。強奪された巨大金庫を車が引きずる。遠隔操作の球形の爆弾が街中を転がり続ける。落下したヘリコプターを車が引きずる。それらが、カーアクション全体の苛烈さへとつながる。

今の観客は少々の迫力描写では驚かない。それを踏まえて、何段階にも分けて先のようなシーンが串刺しのように作品に刻まれる。カーアクションのつるべ打ちに、観客側の欲望の大きさが透けて見える。これで、話の展開が緻密であれば申し分ないが、そうはいかなかった。

続けて初登場圏外のシリーズ3弾「クリード 過去の逆襲」を見ると、複雑な心境になる。このボクシング映画の肉弾戦が、ここまでやるのか、にはならないからだ。過去の恨みが肉弾戦に昇華されない。そこにカタルシスがないと、観客は取り残される。米映画は、さまざまな局面で試行錯誤している。今回の2作品が、そのことを告げる。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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