シネマの週末

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2023.9.15

チャートの裏側:メディアの変化

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

うれしい光景だった。公開2週目の日曜日午前の回、東京都内のメイン館はほぼ満席。午後の2回目も同様だった。関東大震災下の虐殺を描いた「福田村事件」だ。チャートからは見えてこないが、この大ヒットは今年の映画的「事件」だと言える。一つの鍵はメディアである。

虐殺は、朝鮮人に関する悪質なデマから起きた。その悲劇が、行商のために千葉県にやって来た被差別部落出身の人たちに及ぶ。この過程で、地元の新聞記者は事実に即した記事を発信しようとするが、上司が握りつぶす。メディアがデマに加担するのである。記者は諦めない。

今回、多くのメディアが映画の情報を伝えた。政治、社会問題を取り上げることも多いあるテレビ番組は、監督インタビューを交えた紹介を、約30分間にわたって行った。これが主要な客層になった年配者に効果的だったという。この番組含め、メディア側の変化を感じた。

報道の姿勢が問われている。「福田村事件」は昔の話ではない。先の問題意識が、メディア報道の多さの理由の一つになった感がある。取材に即した伝え方、タブー視からの脱却、さまざまなそんたくへの挑戦。「福田村事件」は、これらをメディアに突きつけたのだ。その果敢な製作姿勢こそがメディアを動かし、多くの人に響いたのだと思う。うれしさの根拠である。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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