ひとしねま

2023.7.21

チャートの裏側:「情報なし」への反応

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

数字だけを見れば、文句ないスタートだ。1種類のポスターの制作、配布以外、宣伝が一切なかった宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」である。4日間の興行収入は21億5000万円。宣伝なしとは、作品の情報がないことを意味する。情報過多の時代への果敢な挑戦だった。

この数字は、これまでの宮崎作品の巨大な興行的地層が実現させたとみる。地層を形作る膨大な数の人々は、「宣伝なし」に刺激された面がある。「宣伝なし」という情報が宣伝になるのだ。先の数字は、明らかにその結果であろう。ただ、ことはそれほど単純ではない。

満席が続いた都心と比べると、ローカルが少し物足りない成績という。情報なしをめぐって、都心とローカルでは受け止めに違いがあった。つまるところ、本作への関心は全国的には偏りが見えた。それでも20億円を超えてきたところに、想像を絶する地層の強じんさがある。

異世界を描きつつ、従来の宮崎作品とは様相が異なる。古今東西のあらゆる映画とも似ていない。現実と非現実の世界が結びつく物語設定、展開が、次第にある言葉に集約されてくる。「世界は、このままだと破滅する」。映画は、そこが起点だ。賛否両論を超えた先に、「どう生きるか」が見る者に問われる。今後の興行の道筋は、皆目見当がつかない。次の回に続く。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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