ひとしねま

2023.8.04

チャートの裏側:独り歩きする「私映画」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

4週目を迎えた宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」は、一つの興行の線をたどっている。しだいに、興行収入が落ちてきたのだ。週末3日間比較では、2週目は1週目の51%。3週目は2週目の67%。2週目以降は、夏休み期間に入った。子どもたち、若い層が増えていない。

口コミが、爆発的には広がっていないのだ。かといって、しぼんでいるのとも違う。賛否両論の影響もある。「宣伝なし」だから、作品はすでに独り歩きしている。これまで、宮崎作品を支えてきた膨大な数の人々の中で、関心の度合いにかなり強弱があるように感じられる。

娯楽映画を作り続けてきた巨匠監督たちがたどる道筋がある。自身が歩んできた人生の色合いが、濃厚に刻まれる作品への指向性だ。黒沢明監督やスティーブン・スピルバーグ監督がそうだ。娯楽映画では自己の反映はできるが、深い投影は難しい。そこへ踏み込みたくなる。

宮崎監督も、その道筋に入ってきた。「私映画」という言い方がある。本作は、娯楽的要素も満載の全く稀有(けう)な「私映画」に見えた。戦争がはびこる今の時代に向けた強烈な思いと、娯楽性を包含したあふれかえる想像力の束が画面上で火花を散らす。すごい作品なのだが、頭を抱える人が出てくるのもわかる。それらひっくるめて、作品は独り歩きしているのである。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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