ひとしねま

2023.9.22

チャートの裏側:新感覚「ミステリ」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

原作がコミック、テレビドラマ化を経て、テレビ局が中心となり映画版を製作した。「ミステリと言う勿(なか)れ」だ。大ヒットである。最終興行収入で45億円以上が見込まれるという。この数字にはちょっと驚く。ドラマのファンが多いと聞いた。ドラマ映画の底力が実感できた。

モジャモジャ頭の久能整(ととのう)が主人公だ。地方の富豪一族の遺産相続に関わる。ジャンル的には探偵ものだが、従来の探偵の謎解きとは様相が違う。そもそも、彼が踏み込む段階では事件は起こっていない。話は過去の忌まわしい出来事が中心だ。なかなか、面白い劇構成である。

探偵映画的なジャンルでは、探偵に魅力がないと肩透かしを食らう。いかに巧妙な謎解きがあっても、それは言える。カタルシスは、卓抜な謎解きと探偵役の個性がかみ合ってこそ生まれる。本作の整は才気煥発(かんぱつ)、巧みな弁舌で周囲を圧倒する。新感覚「ミステリ」である。

整の魅力の源泉が言葉だ。特に女性の生き方とトラウマ(心の傷)に関する言葉は意表を突く。どちらも、主要な登場人物に向けられる。今という時代を反映した、まっとうでデリケートな感性だ。彼は丁々発止の謎解きをするだけではない。言葉の端々に時代の申し子のような趣がある。大ヒットは彼への共感度が強いからだろう。演じた菅田将暉が整になりきった。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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